WBC「侍ジャパン」がまたも決勝を逃した理由 落とし穴は雨に濡れた天然芝だけでなかった

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米国では認知度がいま一つのWBCだが、日本では第1回大会から人気沸騰。2次ラウンド初戦の米国戦、ボブ・デービッドソン球審の「世紀の大誤審」で火がついた。2次ラウンド1勝2敗ながら失点率で準決勝進出という幸運にも恵まれ、初代王者に。第2回大会も優勝。日本のファンにとっては4年に1度の欠かせないお楽しみになっている。

スタンドは埋まるし、テレビの視聴率はハネ上がる。米国での不人気で収益が上がらないWBCIにとって日本はドル箱。一定の収益を確保するために2次ラウンドまで読売新聞に譲渡したのだ。ファンにとっては東京ドームで生の侍ジャパンが見られるし、テレビ観戦もいい時間に楽しめる。

今回の視聴率も1次ラウンドがキューバ戦22.2%、オーストラリア戦21.2%、中国戦18.0%、2次ラウンドはオランダ戦25.2%、キューバ戦27.4%、イスラエル戦25.8%。準決勝の米国戦も平日の午前中で20.5%をマークした(いずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。

侍ジャパンにとってもメリットはある。天候に左右されない東京ドームで、360度から熱い声援をもらえる。デーゲームもある他国と違い、すべてナイターという「開催国特典」も付く。滑るWBC球(ローリングス社製のMLB公式球)には苦労しても、2次ラウンドまでは有利な条件で戦えるのだ。

「2次ラウンド」を日本で開催する損得

しかし、決勝ラウンドでは前述のように環境の変化、ゲーム感覚など大きなハンデを背負う。世界一を目指す侍ジャパンにとって2次ラウンドまで日本で開催するのは両刃の剣なのである。

オランダ、イスラエルなどの台頭で盛り上がった今大会。侍ジャパンは1戦ごとに結束力を高めていき、すばらしい戦いを見せてくれた。小久保監督以下首脳陣、選手に敬意を表したい。同時に、これだけのチームだからこそ、2次ラウンドから米国のプールに入っていたらなあと思う。

次回2021年の第5回大会はどんな日程になるのだろうか。今回、初優勝を果たした米国でも少しはWBCに対する関心が高まったと思う。観客動員数も108万6720人と初めての大台を記録。前回大会の88万5212人を22.8%上回った。そろそろジャパンマネーを当てにするのはやめて、日本開催は1次ラウンドだけという形に戻してもらえないだろうか。

できれば日本を2次ラウンドでドミニカ共和国やベネズエラと同じプールに入れてほしい。日本がこれまでWBCで対戦した相手を回数順に並べてみると、韓国8、キューバ6、米国、中国、オランダ各3、台湾2、メキシコ、ブラジル、プエルトリコ、オーストラリア、イスラエル各1となる。実は、メジャ―のスター軍団を抱えるカリブの強豪2カ国とはまだ1度も対戦していないのである。

永瀬 郷太郎 スポーツニッポン新聞社特別編集委員

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ながせ ごうたろう

1955年、岡山市生まれ。早稲田大学卒。1980年、スポーツニッポン新聞東京本社入社。1982年からプロ野球担当になり、巨人、西武の番記者を歴任。2001年から編集委員。2005年に「ドキュメント パ・リーグ発」、2006年は「ボールパークを行く」などの連載記事を手掛ける。共著に『たかが江川されど江川』(新潮社)がある。野球殿堂競技者表彰委員会代表幹事。
 

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