トヨタ・VW・GMが本気、過熱するEV開発競争 米テスラが火を付けた「電気自動車ブーム」

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VWがEVに力を入れるのは、2015年に発覚したディーゼルエンジンの排ガス不正からの脱却以上に、2大自動車市場の米国と中国で環境規制が一気に強まることが大きい。

米国で自動車販売が最も多いカリフォルニア州では2017年後半から、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制が強化され、走行中に排ガスを出さないEVかFCV(燃料電池車)を一定比率以上販売しなければならなくなる。

中国でも、2018年から暫定的にZEV規制に類似する制度が始まる予定だ。VW乗用車部門で販売・マーケティング担当役員を務めるユルゲン・シュタックマン氏は、「中国は近い将来、非常に大きなEV市場になる。われわれは中国で確固たる地位を築いた。今後EVでも強いプレーヤーになれる」と鼻息が荒い。

競合各社もこぞってEVシフトを加速する。米ゼネラル・モーターズ(GM)は航続距離が380キロメートルとなる「シボレー・ボルト」を発売。補助金が支給されれば、300万円台前半で購入可能だ。独ダイムラーは「メルセデス・ベンツ」でEVの新ブランド「EQ」を立ち上げた。500キロメートルの航続距離を実現し、2020年までに市販を狙う。

テスラの勢いが大手を動かした

EV競争に火をつけたのは規制強化だけではない。米EVベンチャー、テスラの存在だ。高級EVでブランドを築き、年内には既存車種の半額となる3万5000ドル(約390万円)の小型車「モデル3」を発売する。初期受注が37万台を超え、業界を震撼させた。EVの草分け、日産自動車「リーフ」の累計販売約29万台をすでに上回った。

EVはエンジン車やHV(ハイブリッド車)、FCVほど複雑でなく、新規参入が比較的容易だ。テスラはパナソニックと共同でリチウムイオン電池セルの巨大工場を建設。EV生産を2018年に年50万台に引き上げる計画だ。

これまでエコカーの先陣を切ってきたのはトヨタだ。1997年発売の「プリウス」でHVの量産化に世界で初めて成功したことが大きい。だがHVは今後、各国の規制でエコカーの対象から外れる。これを機に他社はEVなど電動化車両をいち早く投入し、勢力を伸ばしたい考えだ。

EVへの消費者の関心はまだ低い。ただ2017年以降は、価格が手頃で航続距離の長いEVが続々投入されていく。IHSグローバルの波多野通プリンシパルアナリストは「EVは今後、(メーカーにとって)義務になっていく。内燃機関のような差別化はしにくく、コスト競争を意識しないといけない」と指摘する。

トヨタも動いている。次世代の本命としてきたFCVだけでなく、EVの量産化を目指し、昨年12月に社長直轄の新組織を設立。豊田自動織機、デンソー、アイシン精機のグループ各社からも精鋭を集め開発スピードを上げる。

EV時代の主導権をめぐり、自動車メーカーの新たな戦いが始まっている。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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