ネットで「偽ニュース」を拡散するのは読者だ ネットと紙媒体の本質的な違いとは?

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──その心掛けはネットリテラシーの1つといえますか。

そう。既成のジャーナリズムとの大きな違いの1つだ。

もともとネット上は、異なるメディアに相互依存関係があり、それぞれが複雑に影響し合い、依存ばかりか相互監視までするような「生態系」としてとらえる必要がある。それゆえネットニュースも、今までのジャーナリズム論ではとらえきれない。

今までのジャーナリズム論では調査報道以外は駄目であるような言い方がされてきた。発表を記事にするのがどれだけ大変なのかご存じなのかと言いたくなるほどだった。これには結構な修業とスキルが必要だ。しかも短時間で仕上げる。それなしに世の中が回るのかとさえ感じてきた。「発表ジャーナリズム」との蔑称で下に見られすぎていたが、いい調査報道自体もそこでの鍛錬に支えられている。

ネットジャーナリズムがメインになると、そういう序列を伴う考え方は障害になる。むしろ、それぞれのメディアが並列にその役割を果たして、全体として市民が必要な情報を得られるのかどうかを問題にすべきなのだ。

情報源として何かの判断材料に使うとリスクを伴う

──そこでのキュレーションメディアの役割は。

松林薫(まつばやし かおる)/関西大学総合情報学部特任教授(2016年4月から)。1973年生まれ。京都大学経済学部を卒業、同大学院修士課程を修了。日本経済新聞社に入社。経済部で金融・証券、年金、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」などの編集も手掛ける。2014年に退社後、報道イノベーション研究所を設立(撮影:尾形文繁)

キュレーションメディアは2つに分類される。一つは情報のまとめサイト。問題になった「ウェルク(WELQ)」などが含まれる。投稿型で、ネット上にある情報も組み合わせ、手を加えて記事にして載せる。もう一つは「ヤフーニュース」のように記事をほかの媒体から持ってきて並べるもの。ポータルサイト仕様でもあるが、記事内容に手は加えない。こちらのほうが本来のキュレーションの意味に近い。

結局、まとめサイトの場合は仮に間違っていても害がないようなものを楽しむという点ではよくできている。著作権を侵害しているかどうかは供給者の問題だ。ただ、これを情報源として何かの判断材料に使うとリスクを伴う。今回、そういうことを見せつけられた。内容を鵜呑みにし、健康に問題があるときにサイトに従い何かの対症療法を行うと、まずいことが起こるかもしれない。

──問題は情報の出し手?

前者はコンテンツの作り手に半プロもいるが、かなり素人に近い人たちが入ってきている。プラットフォームとしては一般の人の投稿も受け付ける形で、コンテンツは今までのジャーナリズムで対象としていた、プロが作ったものではない。

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