長州の女性起業家は「日本酒革命」を目指す 山口で生まれた唯一無二の日本酒とは?

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こうしてイセヒカリを使用できることがわかると、錦町の農家に依頼して減農薬、有機農法で栽培して、原料にすることに決めた。

堀江氏はさらにもうひとつ、世界展開に向けて秘策を仕込んだ。

ワインは熟成させることで風味や希少性が増し、付加価値となる。一方、一般的な日本酒の賞味期限は1年。近年、日本酒業界は積極的に海外展開を進めているが、決して長いとはいえないこの賞味期限が海外で市場拡大をするための大きなネックとなっている。

東京農業大学時代から日本酒を熟成させ、古酒として価値を高める研究をしてきて、堀江酒場でも20年熟成の大吟醸を売っている堀江氏は、イセヒカリで造る酒も同じ手法で仕込み、「賞味期限1年」の壁を破った。

「酒ソムリエ・オブ・ザ・イヤー」受賞者の言葉

山口最古の酒蔵が、日本有数の清流の水を使い、特別に栽培された奇跡のコメを極限まで磨き上げ、年を経るごとにうま味が増すように仕込んだ酒は、唯一無二の存在だ。

松浦さんと堀江氏は、堀江酒場の代表的な酒「金雀」の雀をとり、みんなの夢を乗せて世界に羽ばたけ! と願いを込めて、「夢雀」と名付けた。そして「夢雀をドンペリやロマネコンティのような存在にしたい」という思いを実現するために、日本一高い1本8万8000円の価格をつけ、1000本だけの限定生産にした。

夢雀の販売をはじめるにあたり、松浦さんは一般社団法人の「おんなたちの古民家」とは別に「ARCHIS(アーキス)」という株式会社を設立。古民家再生事業のときから松浦さんをサポートしてきた元商社マンの原さんが副社長に就いた。

昨年8月、日本のメディア向けに夢雀の発表をしてから目まぐるしい日々が始まった。

まず10月、メインバンクである山口銀行のサポートを受けて、香港の日本国総領事館公邸で夢雀のレセプションを開催。

翌月には、松浦さんがプライベートで岡山を旅行していたときにたまたま知り合ったサウジアラビア在住の女性のツテをたどり、ドバイでのプロモーションにこぎ付けた。

迎えた2016年11月9日。

夢雀をグラスに注ぐラジャン・ランサガミー氏(提供:ARCHIS)

松浦さんは、原さんとともに夢雀の商談でドバイのアルマーニホテルにいた。商談には、アルマーニホテルの日本料理店に在籍する2013年の「酒ソムリエ・オブ・ザ・イヤー」受賞者、ラジャン・ランサガミー氏も顔を出していた。

ひととおりのあいさつを終え、いよいよ試飲のとき。夢雀を注いだワイングラスを何度も回転させて香りを確かめるラジャン氏の姿に、松浦さんの緊張が高まる。

グラスに唇を寄せ、夢雀をスッと口に含んだラジャン氏は、満面の笑みを浮かべた。

「アメイジング! ファンタスティック! これまで試したどの酒よりも香り高いよ」

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