16年ぶり赤字、千代田化工に何が起きたのか 社運かけたプロジェクトがわずか1年で頓挫

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しかし原油価格は2016年初頭に20ドル台にまで落ち込む。その後、OPEC減産で盛り返したとはいえ、60ドル台への回復の道筋は見えない。そうした中で海洋油ガス田の大型工事が激減した。その間も、サブシー3強はECSの得意とする小型市場に情け容赦なく殴り込みをかけてきた。

ただでさえ案件数が減る中、採算悪化が重なり、ECSは瞬く間に赤字に転落した。2016年3月末の最終投資時点では業績悪化の足音ははっきり聞こえていたはずだが、「まだ2018年には回復できると見ていた」(中垣副社長)。この点で千代田化工の状況判断は甘かったと言われても仕方がないだろう。

今後も「ECSの存続・再生を目指す」(中垣副社長)のが千代田化工の基本姿勢。現時点で上流分野から撤退の考えはない。ただし中期的にみても市場見通しは厳しい。原油価格が60ドルに近づけば、米国のシェールオイルが本格増産となって、構造的に原油価格が頭打ちになるからだ。

ESCの再建だけではない。千代田化工にとって目下の懸念は、主力である陸上・中下流におけるLNG関連工事の受注見通しが厳しいことだ。LNGはここにきて供給過剰が鮮明になっている。その状況は2023年までは続くと言われており、プラント完成までの時間を考慮しても、大型プロジェクトの戻りは早くて2018年から。日系他社と比べてLNG比重の高い千代田化工にとっては、より逆風になる公算が大きい。

三菱商事から初の社長派遣

3月14日には三菱商事の中南米統括である山東理二(さんとう・まさじ)執行役員が、株主総会後の6月に社長に就任すると発表された。三菱商事出身の社長就任は初めて。33.4%を占める大株主になってからも社長派遣は控えてきた三菱商事だが、今回は社長を送り込む。「三菱商事との関係は、2008年の資本業務提携の時と何ら変わらない」(中垣副社長)と言うが、それだけ三菱商事の危機感は深いと言うことなのだろう。

LNG工事偏重からの脱却を図った千代田化工。その戦略が間違いだったわけではない。ただ本業であるLNG工事の見通しが厳しい中、環境変化に対応する柔軟さを持ち合わせていなかった。新経営陣は同社を再び成長軌道に戻すことができるか。待ち受けるのが荒波であることは間違いない。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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