「トランプ」と「テロ」、航空会社はどう戦うか 航空業界団体「IATA」の事務総長に直撃した

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――空港の混雑はそれだけ航空便が増えたといえる。大きく影響しているのがLCC(格安航空会社)の増加だと思うが、業界の競争環境についてはどう考えているか。

欧州では毎年1~2%のペースでLCCのシェアが拡大している。アジアはそれ以上のスピードだろう。LCCは低運賃によって新たな顧客を呼び込んでいる。運賃が高く、より複雑だったころには飛行機での旅行など考えられなかったような人々だ。

さらにLCCは航空のネットワークを拡大させた。大手航空会社のハブになっているような主要空港だけでなく、その周辺都市にあるセカンダリーな空港を結ぶようになった。LCCだけで成り立っている空港もあるほどだ。短中距離路線では大手の脅威になるが、乗客にとってはメリットが大きいし、業界全体としても旅客数の伸びを促してくれることはいいことだ。

羽田空港の着陸料値上げは妥当なのか

アレクサンドル・ドゥ・ジュニアック(Alexandre de Juniac)/2016年9月から第7代国際航空運送協会(IATA)の事務総長兼CEOを務める。フランス政府で官僚として働いた後、航空防衛企業タレスを経て、2011年からエールフランス、2013年からはエールフランス・KLMで会長兼CEOを務めた(撮影:尾形文繁)

――日本でも成田や関空でLCC専用ターミナルが開設された。

それが今のトレンドになっている。中部国際空港も検討していると聞いている。ただ低コストの空港使用を求めているのはすべての航空会社であって、LCCだけではない。LCC専用のインフラを作る前に、既存のターミナル施設が最大限活用されているかを見極めなければならない。

航空会社にとって、日本の空港使用にかかるコストは高い。外部の専門家による調査によれば、成田は世界で23番目、関空は13番目に高い空港だった。大きな懸念は(4月に着陸料を値上げする)羽田空港にある。非常に優位な立地であることは確かだが、料金設定の手法はもっと精査されるべきだ。

一方で関空は着陸用の値下げを決めた。民営化により、顧客重視の戦略に変わっている。新路線を優遇するための起業家的なアプローチを称えたい。そして航空会社はこうした動きをより多く求めている。

――IATAの予測では世界の航空業界の利益は2017年、前年を下回る予想だ。

昨年は過去最高となる業界全体で356億ドルの純利益を出した。ただ2017年は298億ドルとなる見込みで、厳しい年になりそうだ。最大の要因は燃油価格の上昇である。

旅客数は初めて40億人に達する見込みであり、市場は広がっている。この数字は20年後に倍増すると予測している。業界は以前に比べ着実に稼げるようになった。ただ政治や経済には不安定要素が多い。利益を維持するのはまだまだ困難が伴いそうだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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