汚名返上なるか「アジアのサルコジ」 人気急落で政治基盤失う経済政策は全面見直しへ

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一時は10%台に落ち込んだ李明博(イミョンバク)大統領の支持率を見てもわかるように、ここまで国民にそっぽを向かれ、権威も落ちるところまで落ちた大統領に、汚名返上の機会はあるのだろうか。

「経済大統領」を取り巻くマクロ環境は今最悪だ。姜万洙(カンマンス)企画財政相は「韓国経済はスタグフレーションに向かっている」と発言。資源高とウォン安による物価高は止まらず、失業率も若者を中心に高水準が続いている(右グラフ参照)。

韓国政府はすでに08年の国内総生産(GDP)成長率見通しを、6%から4.7%へと下方修正した。赤字が長らく続いた経常収支も、ようやく月間ベースで黒字のメドがたったが、ウォン安に変わりはない。

このため、「年間7%の成長、一人当たり国民所得4万ドル、世界7位の先進国入り」を目指す主要公約の一つ、「747」もすでに崩壊寸前だ。李大統領自らも、「第3次石油危機といえるほどの困難な状況」であることを認めている。

李大統領の経済政策は、「747」をはじめ「成長重視」の政策だった。FTA(自由貿易協定)などを通じて国際経済との関係を深め、規制緩和や減税によって企業活動を活発化させて国民の雇用を増やし、生活の質の向上に結びつける、というものだ。だが、慶應義塾大学の西野純也講師は「企業寄りの政策に対する、国民レベルでの議論はもともとなかった。現在の状況からすれば、『747』はそのうち正式に撤回せざるをえないだろう」と指摘する。

政治家より行政官 政治より経済優先

李大統領はなぜつまずいたのか--。彼はソウル市長時代、バスや地下鉄など市内の交通体系を改革して利便性を向上させた。また、市内中心部に流れていた川を復元させ、世界最高の環境行政と評価された「清渓川復元事業」といった実績もある。

こういった実行力と現代建設CEOとしての豊富な経営能力を、国民が評価したからこそ大統領になれたわけだが、「もともと政治能力に長けていたのではなく、政治家というより行政官」(小針進・静岡県立大学教授)と手厳しい意見も聞かれる。壮大な国家計画の見取り図を描くより、決められた路線を着実にこなしていく実務家向きだという。

さらに、これは一つの仮説だが、李大統領は政治というものを一段下に見ているようなフシがある。韓国という開発独裁(軍事政権が強権によって国内の反対を抑えつつ開発を推し進める体制)で成長を遂げた国において、企業は時の政権に経営を振り回されることがある。朴正煕(パクチョンヒ)、全斗煥(チョンドゥファン)という軍事政権時代に政治圧力に翻弄されたことを、李大統領は自著で明らかにしている。

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