エディーとオシム、智将の「考えさせる」技術 「試して育てる、考えさせる」はこうやる

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それを教えてくれたのは、京都サンガで昨季まで普及・育成に携わった池上正(I.K.O市原アカデミー代表)。ジェフユナイテッド市原・千葉時代で3年半、オシムの練習を見続けた。

「オシムさんの練習をいちばん観察したコーチ」と同クラブの元スタッフに言われる池上は、『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』など多くの著書でオシムの矜持を伝えている。

「オシムさんはよく日本人の従順さを嘆いていました」と振り返る。ある日、4人で四角形をつくってパス回しの練習をしていた。4対2、4対3と、難易度が上がると守備の人数が増える。多くの場合、グリッド(四角形の広さ)を大まかに決めるためマーカーを4つ置くなどする。範囲が決まっているため、日本の選手はそこから出ようとしない。

すると、オシムから注意を受ける。

「どうして動かないの? そこじゃもらえないでしょ?」

「グリッドがあるので」と説明すると、再び怒られる。

「試合のピッチにグリッドなんてあるのか!!」

池上は懐かしそうに笑って言う。

言われたとおりにしかプレーしない日本人の欠点

「それやったら、なんでグリッド置いてんねん? と選手は言いたくなるでしょ? 見ていて、本当に面白かった。オシムさんは選手にいつも、試合中はどうする?と問いかけてました。つねに実戦をイメージして動いたら、決まりごとなんて忘れるものじゃないかと。一見めちゃくちゃなことを言っているようですが、コーチの言われたとおりにしかプレーしない日本人の欠点を修正しようとしていたのかもしれません」

オシムの著書『急いてはいけない 加速する時代の「知性」とは』のなかに、「選手たちにはサプライズが必要だ」の言葉がある。

池上によると、オシムも急に練習場所を変えたり、開始時間を変えたりしていた。

「24時間、選手やスタッフを試し続けている。考える力をつけろと伝えているのだと思った」

試して育てる。混乱とサプライズ。日本の2大ボールゲームにかかわった2人の知将は、同じ視点をもっていたといえよう。

エディーにオシムのことを尋ねてみた。

「(オシムのことは)よく知っている。ラグビーの日本代表が私にとって自分の心にいちばん近いチームであるように、オシムさんも同じようにサッカーの日本代表を思っているのではないか」

エディーが監督就任後17連勝を挙げたこの日。エディー・ジャパンだった選手が多く集まる「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ」は、スーパーラグビー第3節チーターズ戦に挑んだ。

後半一時リードしながら再び逆転され31対38と惜敗したが、若い選手の活躍もあって伸びしろを感じさせる1戦だった。

サッカーの日本代表は3月23日から、2018W杯ロシア大会アジア最終予選が再開した。智将たちの提言を思い浮かべながら、選手の姿を追ってみてはいかがだろうか。(=敬称略=)

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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