エディーとオシム、智将の「考えさせる」技術 「試して育てる、考えさせる」はこうやる

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そこで、選手には「不確かなものを授けて、自分で考えてもらうようにした」(エディー)。

練習前、トレーニングメニューをホワイトボードに書かず、知らせない日をつくった。練習の時間変更に加え、予定ではオフだった日を練習にしたり、逆に休みにするなど、わざと予定を変更した。

「混乱していい、自分で考える機会になる」

エディー・ジョーンズ/ラグビーイングランド代表ヘッドコーチ(撮影:今井康一)

W杯前に実施した宮崎での合宿では「君たちの準備が足りない。やらないほうがいい」とウォーミングアップ中に練習中止を言い渡した。選手は「やらせてくれ」と食い下がったが、聞き入れなかった。

「(選手は)混乱していい。そこで、何が足りないのか、自分を省みて、自分で考える機会になる」

試して育てる、考えさせる――エディーの育成術が奏功し、W杯での快進撃につながった。大会中、指揮官は試合前の円陣に1度も加わらず、選手たちに任せたのだ。

「4年間で選手の主体性を磨かなくては、ワールドカップで勝ち目はないと思った。私が日本で大学や高校のラグビーを見て回ったからだ」

HC在任前に菅平で大学チームの練習試合を見たことがある。

「試合に負けたほうが、急に全員でフィールドを走り始めた。つまり負けた罰として、追加で練習をさせられていた。でも、選手に罰を与えてはいけない。大学生であろうが、ラグビーは楽しませなければいけない」

高校生の練習を見に行くと、真夏に朝3時間、午後にまた3時間行っていた。しかも、午後の練習後にフィットネステストを実施していた。

「体力を失った選手がテストでよい数字が出せないのは当然のこと。それなのに、コーチはフィットネスが足りていないからだ!としかっていた。目の前の選手はフラフラしながら走っている。あのような理不尽なことばかりやらされていては、自分で考えることなどしなくなる」

眉間にしわを寄せたエディーは、さらに「特に子どもたちの育て方を変えなくてはいけない」と説いた。

「トップは勝つことにこだわるのは当たり前だろう。でも、若年層は違う。子どもを育てる指導者が勝利にこだわると、どうしても厳しくなる。そうなると、子どもたちは自分でラグビーをクリエートしなくなる」

みんなが口をそろえて言ったりすることや、思い込みに疑問を持て。著書『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング』には、日本人に対する警鐘の言葉が並ぶ。

日本の子どもたちが「自分でクリエートしない」、つまり、自ら考え創造的なプレーができない背景をもつことに気づいていた外国人が、もう1人いる。サッカーの元日本代表監督のイビチャ・オシムだ。

「日本人は他人の言うことを聞きすぎる。日本の選手はコーチが右に行けと言ったら、右に行くよね。ヨーロッパの選手はわざと左に行くよ」と言ったそうだ。

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