慶應ビジネススクール

EMBAプログラム修了で私が変わったこと scene 4

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新卒で入社したGE横河メディカルシステム(現GEヘルスケアジャパン)では米国本社のGMはもちろん、カウンターパートはMBAホルダーばかりでした。身近にいたMBA留学経験者からもさまざまな話を聞いている内に刺激を受け、当時の本部長に思い切って相談してみたところ返ってきた答えは「ヨシ、分かった。どれだけ時間がかかってもいいから絶対にやれ!」でした。既に20年以上前のことですが会社に派遣制度はなく、自費でも賄えずに時間は過ぎてしまいました。
その後、自動車メーカーへ転職。この業界は多くの専門家たちと対等に会話できるバックグラウンドが求められます。自分の領域だけでなく、実務から包括的な経営知識に至るまで、その必要性は年を追うごとに感じていました。それでも深夜や明け方に帰宅することが多く、またもや時間が過ぎてしまいましたが、前職での本部長の言葉がずっと頭の片隅に残っていました。
国内で経営大学院が増えてきていることは認識していましたが、休職を前提とするフルタイムはやはり無理。そこでKBSに新たにEMBAプログラムが開設されることを知り、KBSの門を叩くことになったのです。
 
Executive MBA 第1期修了生
〜浜 由紀〜
株式会社島津製作所
グローバルマーケティング部
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)が、日本初の中核ミドル層に特化した新しいMBAプログラム「Executive MBA(EMBA)」を2015年に開設して初めての修了生を送り出した。総合的な経営管理能力をもつ最高経営幹部(トップマネジメント)が歩を進める瞬間だ。果たして学生たちは何を学んだのか。

時間を割く価値がある

KBSのEMBAプログラムは、日本語が主体ではあるものの、グローバル経営科目ではINSEADやシンガポール国立大学の教授を招いての授業を行ったり、(国内)フィールド科目・海外フィールドでは企業の経営陣や従業員に実際にヒアリングをしたうえで経営改革の提言を行なったり、また平日夜間にはKBSの全日制MBAの学生や海外からの留学生と一緒に学ぶハイブリッド科目を受講したりと、一般的なMBAプログラムよりも密度の濃い時間を過ごしました。

中でもビジョナリー科目というのは、2年間を通じて学年全員(一期生は39名)で40年後のビジョンを描き、それを実現させるための方策を提言するというもので、最終的には出版の形で残すというのも非常にユニークな点ではないでしょうか。

ビジョナリー(visionary)とは、Longman Dictionary of Contemporary Englishによると “someone who has clear ideas and strong feelings about the way something should be in the future” (未来のあるべき姿について明確な考え、強い思いを抱く者)と定義されています。未来がどうあるべきかについて単に夢想的な議論をするのではなく、あるべき姿を達成するために「今、何を成すべきか?」を掘り下げ、その実現に向けた手法やプロセスをビジネスとして成立させる観点で考えるものです。

最初のステップは、ノルウェーBIビジネススクールのヨルゲン・ランダース教授が2012年に出版した「2052 今後40年のグローバル予測」が事前教材として入学前に各自に送られており、通読した前提で3日間の合宿において7〜8人を1グループとして議論するというものでした。始めは製造業、金融、サービス等、産業別に編成されたチームでしたが、その後は半年ごとにグループを変え、業界を横断した混成チームでテーマごとに少人数の議論を重ね、全体のプレゼンテーションで共有した後にまた小グループで議論するという繰り返しでした。提言をまとめる編集委員も半年ごとに総入れ替えしましたが、出版に向けた最後の編集委員、特に編集長を務めたリーダーは本当に大変な苦労だったと思います。

今まで考えなかった時間軸の重要性

ビジョナリー科目で将来のあるべき姿を定義し、それを実現させるためのプロセスを考えるにあたって我々はバックキャスティングという手法について学びました。

フォーキャストとは主体が現時点にあり、そこから将来がどうなるかという予測を様々なデータや過去の実績、歴史的変遷に基づいて文字通り「予測」します。科学的アプローチですがそこには個人や集団の意図、意思は介在しません。一方でバックキャストとはあるべき姿を最初に定義し(ゴールの設定)、それに近づく、あるいはそれを実現させるためにはその10年前までに何が達成されていなければならないか、20年前にはどうなっているべきか、さらに30年前、40年前(仮に40年後のあるべき姿を描いた場合、現時点はその40年前ということになる)には何に着手しているべきかという逆の視点から出発します。これには個人、集団の意図、意思が大いに介在してきます。

2年間を通じて議論してきたビジョナリー科目は、通常ではできない経験であるばかりか、普段の実務の中で考えることのないスパンでしょう。企業の中期事業計画とは3~5年、長期計画でも10年ぐらいではないでしょうか。しかし、40年先にどうあるべきか、それを実現させるために何を始めるべきかに関する議論は、実は企業人にとって優先度の高い課題であると認識するようになりました。なぜならば今手がけていることが持つ意味やそれがもたらすことができる影響を考え抜かなければいけないからです。これは一企業の存在を遥かに超えるものであり、自分達に足りていない知見やアイデアをネットワークの力を活用して克服することが不可欠です。そしてこれがEMBAプログラムで得た大きな収穫のひとつです。

我々は職業人であると同時に経営やマネジメントを学ぶビジネススクールの学生という位置づけです。念頭に置いているのは常にビジネスプラン、ビジネスモデル、市場開拓や収益確保といったビジネスの観点ですが、それらは「金儲け」という短絡的な言葉に集約することは出来ません。利益を生み出すということは既に存在している需要に応えるか、あるいはまだ顕在化していない需要、市場、顧客を定義してそれらを満たす解を提供することによって対価を得ることだと考えます。そして利益とはモノ、サービス、コト(事例)の提供を受ける者が、それによって手にすることができるアドバンテージに対する見返りと捉えています。モノやコトを享受する人々が、それによって豊かな未来、営みを手にすることにつながらなければ、利益を生み出すビジネスとは呼べないでしょう。

今から40年後の世界。環境対応や国内の少子高齢化、地方の過疎化に対して、また一方ではインドや東南アジアでの人口増加と経済発展が見込まれる世界に対して、既存の大手自動車メーカーとは異なる観点で新しい小型モビリティの商品化とそれを活かした事業やサービスを成立させたいという夢があります。何とか元気で働き続け、そうした2050年代を実現させる礎を築くことに着手し、その世界をこの目で確かめたいと思います。

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