「経済成長は不可欠」という神話が国を滅ぼす チェコの奇才が教える成長より大事なもの

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しかし、私たちがつくった社会は、甘い前提でつくられている。経済は当然ながら失速したり停滞したりするのに、私たちの社会モデルや年金モデル、そして銀行業務すら、経済成長を前提にしている。でも、経済は成長しないときもあります。

「成長が必要だ」という言葉をつねに耳にします。私は「そのとおり。でも成長していないのです」と答えます。「晴れの日が必要だ。晴れの日が必要だ」とお題目を唱えるのと同じです。「ええ。でも今、外は雨です」――。

大人を無理やり成長させても醜く太るだけ

安田洋祐(やすだ ようすけ)/1980年東京都生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し、経済学部卒業生総代となる。2007年プリンストン大学よりPh.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン(写真提供:NHK)

セドラチェク:ですから、現実的になりましょう、というのが私の主張です。恒久的に本当の意味での成長をつくり出すのは無理です。

経済は、どの国でも上向いたり下向いたりです。私はこれを「メリーゴーラウンド危機」と呼んでいます。60年前はイギリスがヨーロッパ経済のがんでした。15年前はドイツで、今はギリシャです。

1991年にはソ連が崩壊してフィンランドがヨーロッパのがんとなり、大量の学歴ある若者が失業しました。好況や不況がひとつの国にとどまることはない。これがいいところです。ですが、将来、どの国が勝者に、どの国ががんになるかは予想できない。

私は成長に反対していません。そこは強調しておきます。好天に反対する人はまれです。でも、毎日晴れるのが当然で、いつも上機嫌でいなければならないと思い込んでいれば、悪天候に見舞われることもある人生は鬱々(うつうつ)としたものになるでしょう。雨の日や風の日もあり、それは必要です。

私の論敵は成長するのが当然だとよく言いますが、それは間違いです。子どもは成長しますが、大人は成長しない。経済は子どもですか? 大人を無理やり成長させようとすれば、背が伸びるのではなく、醜く太るだけです。

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