ヤマト、労使で合意した「働き方改革」の全容 これからは社外交渉、値上げを実現できるか

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だが、インターネット通販の拡大で宅配便の個数が急激に増え続ける昨今、この時間指定がドライバーの負担になっている。指定された時間に宅配しなければならないため、事前に効率的な配達ルートを組むことが困難になるからだ。

大量の宅配物を積み入れるドライバー(撮影:大澤 誠)

携帯電話やパソコンで再配達依頼ができるようになり、即時に再配達の対応をしなければならないケースも増えた。再配達依頼を受けてその場で配達ルートを修正する必要が生じたことで、ドライバーの労働時間が長時間化する原因の一つになっている。

またネット通販利用者には日中は働いており、夜間しか荷物の受け取りが難しい人が多い。そのため指定される時間が20~21時の1時間に集中することも現場の負担を増やしている。ドライバーと共に配達を支えるフィールドキャストと呼ばれるパート社員がいるが、夕方以降はなり手となる主婦は家事で忙しい時間帯だ。運ぶ荷物が集中しているにもかかわらず、シフトに入れる人が限られ配達員が手薄になってしまう。

時間帯お届けサービスが導入されたのは20年近く前のことで今や制度疲労を起こしている。そこで今回の合意では6月に12~14時の時間指定を廃止し、再配達の時間指定が集中する「20~21時」を「19~21時」へ変更した。また再配達の受付締め切り時間も20時から19時に繰り上げることで、20時以降に集中する荷物の削減を図る。

外部委託費の増加で業績を下方修正

もう一つ、商品・サービス面では、大口法人顧客との契約内容を見直し、取り扱い数量を適正化する点も合意に至った。具体的な内容はこれから詰めるというが、繁忙期などは荷物量の上限を設け、荷主にはピークシフトを交渉することなどが検討される方向で荷物の総量抑制につなげる。

合意の背景には昨年12月、荷物が増えすぎる悪影響を現場に加え経営者が痛感したことが大きい。12月は上旬にはお歳暮、下旬にはクリスマスや年末年始の準備でクール便を中心に荷物が急増し通常月の2倍近い個数になる。首都圏のある営業所では、過去の荷物の増加状況を基に予測、配達要員を補充し体制を整えた。だが、「ネット通販の荷物の増大は予想をはるかに超えてきた。例年なら中旬に落ち着くタイミングもあったがそれがなく、息つく暇がなかった」と振り返る。

配達日を守るために、現場は外部の運送業者に依頼し急場をしのいだ。それがヤマトの業績に重くのしかかった。1月30日に発表されたヤマトホールディングス第3四半期決算(2016年4~12月期)で、予定していた利益を大きく下回り、大幅な下方修正を余儀なくされたのは、予想をはるかに超える荷物に対応し外部委託費が大幅に増加したためだ。

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