きっぷの技で新分野へ、老舗印刷会社の挑戦 ネット時代に活きた伝統の乗車券印刷技術

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「『ダサい印刷会社にはもう仕事は出さないぞ』とはっきり言われました」。同社常務取締役で、制作やデザインなどクリエイティブ面を担う「インセンクス事業部」プロデューサーの山口誉夫さんは、ある鉄道会社の担当者が発した強烈な一言を今も鮮明に覚えている。

かつて同社が印刷した硬券乗車券・乗船券の数々(撮影:尾形文繁)

大学卒業後、当初は違う道に進んだ山口さんが、父の「戻ってこい」という求めに応じて同社に入社したのは今から31年前。国鉄がJRに変わる直前の時期だ。

当時、乗車券は硬券から(自動券売機の)ロール紙へと進化していたが、さらに定期券のカード化や磁気券化など、鉄道各社で電子化を始めとした近代化が劇的に進み始めた「夜明け前のような時期だった」と山口さんはいう。

だが、同社は「機械も旧式なものが多く、旧態依然とした部分があった」(山口さん)。当時からすでに一般の乗車券だけでなく、ポスターやチラシといった交通広告、記念乗車券の印刷を手がけていたものの、デザインはすべて外注だった。

デザインを新たな事業の軸に

CI(コーポレートアイデンティティ)などが注目を集め、企業にとってデザイン性が重要視される時代になりつつある中、山口さんは会社が時代から取り残されつつあるという危機感を抱いていた。そのさなかに叩きつけられたのが、先の強烈な一言だった。「『モノをつくるだけじゃダメだ、考えてこい』といわれる時代に入っていた」と山口さんは当時を振り返る。

同社が手がけた、伊豆箱根鉄道の「修善寺駅完成記念乗車券」(撮影:尾形文繁)

「このままではまずい」と感じた山口さんは、夜間にデザインの勉強を開始。当初は苦労の日々が続き、記念乗車券のデザイン案を30案提出しても「5秒で『こんなんじゃダメだ』と鉄道会社の担当者にダメ出しされた」という。だが、努力の結果デザインは認められるようになり「ダサい」という過去のイメージは払拭されていった。

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