振り込め詐欺が「高齢者と女性」を狙う理由 「新たな手口」は、どんどん出てきている

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「ニセ電話詐欺」の典型的な手口には、次の3つがあります。もっとも多いのが「カバンの紛失」です。カバンを電車内に置き忘れた、大事な取引に間に合わないなどといっておカネを工面させようとします。次に多いのが「会社のおカネを使いこんだ」という話。「お客さんから預かったおカネを使ったのが会社にバレた」といって、泣きついてきます。そして、もう1つが「男女交際のトラブル」です。「既婚者である女性を妊娠させてしまった、中絶の費用が今すぐ必要」といっておカネを要求してくるというものです。

還付金等詐欺は「医療費や社会保険料の還付が受けられる」とうそをついて逆におカネを振り込ませます。銀行やコンビニATMなどに向かわせ、「還付金を受け取るには、ATMからの操作による登録が必要」と、もっともらしいことを言って、おカネを振り込ませます。

架空請求詐欺は、「有料サイトの未納分がある」「未払いの場合は損害賠償を請求する」などと脅し、使っていないものの使用料を払わせるものです。いずれの場合も「いますぐおカネを用意しなければ」とか、「今日中に登録しなければおカネは戻ってこない」などといって急がせ、考えるすきを与えないというのが共通したやり口です。

ニセ電話で実際に被害に遭う方には、はっきりとした傾向があります。警察庁の平成27年度の統計によれば、発生件数のうち77%が65歳以上の高齢者を被害者としていました。さらに、性別で見ると被害者の8割以上が女性となっています。

高齢者と女性がターゲットになっている理由

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高齢者と女性がターゲットになっているのには、特有の理由があります。これらの犯罪の入り口となるニセ電話がかかってきたとき、自宅にいて電話を取るのは高齢者と女性であることが多いからです。

「高齢者が被害を受けるのは、判断力が衰えているからだ」と思われる傾向がありますが、実は高齢になっても認知症などの病気にならない限り、判断能力は衰えないことがさまざまな研究からわかっています。

そうであれば、人生経験を多く積んだ高齢者ほどだまされにくいようにも思えますが、長年無事に生きてきたという経験を逆手に取って、だまされてしまうのです。

人生経験が豊富だと、トラブルもたくさん乗り越えてここまで来ているため、「こういうときは、こうしたら大丈夫だった」という経験が積み上がっています。すると、経験に頼って省エネで生きようとするあまり、深く考えずに「自分は大丈夫」と過信しやすいのです。

最近では、高齢者でもパソコンやスマホを使う人が増えています。そういう方に注意してほしいのが、架空請求詐欺です。「登録料無料」とうたっているサイトでも、あとから未納料金、あるいは解約料などの名目でおカネを請求してくることがあります。身に覚えがなければ、その手の請求は何もしないでそのままにしておくことです。心配になってメールや電話などをしてしまうと、あなたのメールアドレスや電話番号といった個人情報が犯行グループに知られてしまいます。私たちが詐欺犯罪について考える時間は1日1分もありませんが、犯人たちは四六時中だましの手法を考えています。私たちは「だましのプロ」を相手にしていることを肝に銘じておきましょう。

西田 公昭 立正大学心理学部教授/博士(社会学)

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西田 公昭 / Kimiaki Nishida

1960年徳島県生まれ。1984年関西大学社会学部卒業、1991年静岡県立大学助手、1994年スタンフォード大学客員研究員、2003年静岡県立大学准教授を経て現職。カルト宗教のマインド・コントロール研究や、詐欺・悪徳商法の心理学研究の第一人者として、新聞やテレビなどのマスメディアでも活躍。オウム真理教事件や統一協会などの多数の裁判で、鑑定人および法廷証人として召喚される。主な著書に『マインド・コントロールとは何か』(紀伊国屋書店)『「信じるこころ」の科学』(サイエンス社)『だましの手口』(PHP研究所)などがある。

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