鴻海・郭会長が「サムスン潰し」に乗り出した 中国に巨大パネル工場作り、世界制覇へ一手

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しかし、郭会長は、対決を恐れない。「われわれは値上げをしただけであって、出荷を拒否したわけではない」と反論。郭会長が買い取った500万枚は、サムスンの出荷量全体の10分の1にすぎない。とはいえ、ハイエンドの液晶テレビに採用するパネルであるため、サムスンにとって影響は決して小さくないのだ。

将来を見ると、鴻海は液晶テレビとTFT(薄膜トランジスタ)液晶パネルへの布陣を整えた後、次はサムスンとLGによる寡占状態となっている、有機EL(OLED)、中でもAMOLED(アクティブマトリックス型有機EL)パネル市場に進出するはずである。

現在、サムスンは、小型サイズのAMOLEDで世界の9割以上のシェアを持ち、供給先として米アップルには唯一の選択肢となっている。LGは大型サイズのAMOLEDで絶対的なリードを保っており量産能力が高い。この両社にどうやって追い付くかが郭会長の次の挑戦となる。

台湾・日本連合で韓国を制する作戦

今の鴻海の布陣から見ると、シャープが持っている先端技術の「IGZO」パネルを、AMOLEDの基板とすることができる。群創も長年、LTPS(低温ポリシリコン)基板の技術を開発している。将来、こうした技術を統合すれば、タブレットPCやテレビ、スマートフォン向けパネルとして、世界市場を争うことができる。郭会長が打ち出した「日本と連合して韓国を制する」作戦だ。しかし、サムスンもそう簡単に、倒せる相手ではない。

サムスンは第10世代工場への投資競争に参加していないが、それで世界の液晶テレビ市場トップの座をみすみす明け渡すわけではない。近年、サムスンは従来型のTFT-LCDについて、工場閉鎖を進め、拡大しないという消極的な方針を採用している。この2年間、1つの第5世代工場(L5)と1つの第7世代工場(L7-1)を閉鎖し、今年上半期には、さらにもう1つの第5世代工場(L6)を閉鎖することを予定している。これとは対照的に、有機ELパネル工場の開設を加速しており、2000億台湾ドル(約7400億円)を超える資金を投じている。

事情に疎い人の目からは、サムスンが液晶テレビ市場を放棄したかのように見えるだろう。が、サムスンは戦略を転換し、中国の液晶パネルメーカーを通じて、パネルの供給源を確保しようとしている。例えば、華星の第8.5世工場と第11世代工場に投資しており、持ち株比率は9%を超えている。他の中国メーカーとは、契約生産によって、供給を確保している。そうすることで、サムスンはより利潤の高い有機ELパネルの生産に専念し、競争相手との距離を広げることができる。

つまりサムスンは、中国と連合して台湾を制するという戦略を採用するだけでなく、同じ韓国のライバルであるLGと和解した。LGはサムスンを支援するため、第8世代工場の生産能力を拡大し、毎月30万枚を増産してサムスンの需要を満たすことを決定した。こうした動きは鴻海に対する反撃だ。

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