三越伊勢丹、異例すぎる社長退任の巨大衝撃 杉江新体制はリストラを断行できるのか

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労組が反旗を翻したのはこれが初めてではない。1993年、かつての伊勢丹で創業家出身の小菅国安元社長が株式売買に関する不祥事で突如退任したのも、労組との対立がきっかけだったとされる。

ただ、大西氏が辞任しても、同社の現状が好転するとは限らない。

次期社長の杉江氏は食品畑の出身。管理能力には定評があるが、営業力強化に向けた手腕は未知数だ。

今後は伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店で大型改装も予定されているが、本業回復の道筋を示すのは容易ではない。大西時代に取り組んだ自社開発商品の強化を続けるかどうかも大きなポイントとなる。新体制では、HDと事業会社のトップを分ける案も検討されているようだ。

他社に目を向けると、高島屋はショッピングセンターなどの不動産開発を収益源に育てた。J.フロント リテイリングはテナントに売り場を貸すことで固定費の圧縮を図ってきた。

リストラを断行できるか

三越伊勢丹も大西氏が主導する形で、ブライダル会社の設立や旅行会社・エステ会社の買収に踏み切るなど事業の多角化を進めてきた。だが、いずれの事業も中途半端。今や競合2社との収益力の差は歴然だ。

そして最大の課題は、高コスト体質が温存されていることだ。3月20日には三越千葉店と三越多摩センター店を閉店するが、両店の正社員は他店への配置換えで雇用は維持される。

大西氏は伊勢丹と三越の「社内融和」を説き、人員削減を伴う抜本的なリストラは後回しにしてきた。後任の杉江氏は大西氏の下で経営戦略本部長に就き、大西路線を支えてきた人物。大きな変化は望めないとの見方もある。

社内に鬱積していた不満のマグマが爆発したことで起きた今回の退場劇。しかし難題は何ら解決していない。杉江新体制は先送りされてきたリストラを断行できるか。三越伊勢丹にとって、自力で再建する最後のチャンスだ。

又吉 龍吾 東洋経済 記者

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またよし りゅうご / Ryugo Matayoshi

2011年4月に東洋経済新報社入社。これまで小売り(主にコンビニ)、外食、自動車などの業界を担当。現在は統括編集部で企業記事の編集に従事する傍ら、外食業界(主に回転ずし)を担当。趣味はスポーツ観戦(野球、プロレス、ボートレース)と将棋。

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