(第10回)自分だけの優良企業を発見するのが理想の業界研究だ

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 もうお気づきでしょう、Aさんが業界研究もそこそこに片っ端から企業を回りまくったと説明した就職活動には、きちんとした就職の軸があったのだ。
 逆に言えば、軸があったからこそ、片っ端から訪問や面接を繰り返しても、Aさんは最後までぶれなかったのだろう。
 Aさんが入社を決めた会社は、大手住宅設備メーカー。中国市場はまさに「宝の山」といった形容がピッタリくる企業だった。

 では軸がない人が片っ端から回り捲くるとどうなるのだろうか。
ひとつエピソードを紹介しよう。かつて私が勤務していた就職情報会社には大勢の大学生がアルバイトとして出入りしていた。そのうちの一人、B君は就職活動を大学生活集大成のイベントと位置付け、やる気満々であった。B君は時間がありそうな社員を捉まえてはアドバイスを求めることもしばしばで、筆者も自らの就職活動での反省を踏まえながら何度かアドバイスをしていた。B君には「まずは興味のある業界からでいいので、業界研究からスタートしてみれば」と勧めていたが、せっかちな性格のB君は業界研究をすっ飛ばして所属していたサークルの先輩を中心にOB・OG訪問のアポイントをとりだした。
 そして、最終的に所属していたサークルのC先輩の強力なヒキが決め手となり、C先輩の会社に入社することになった。
  それから1年後、B君から連絡があり、お互い社会人として会う機会があった。B君に「当時の就職活動を振り返ってもらえないか」と言うと、笑いながら「突っ走るだけではなかなかいい会社と出合えないですね。正確に言うと会社云々の話じゃなく、業界の体質が自分には合ってなかったと思います」と語ってくれた。駆け出しの営業だったB君は、「その業界では当たり前となっている営業スタイル」にどうも馴染めそうにないというのだ。

 各種の調査を見ると、入社の決め手が「先輩社員」や「採用担当者」と答えている確率は極めて高い。当たり前だが、「先輩社員」や「採用担当者」は、入社後も常に傍にいて皆さんをケアしてくれる存在ではない。B君のようにC先輩の魅力だけで企業の優劣を判断するのはリスクが高い。人の魅力で企業を判断できる方法があるとすれば、それは中小企業くらいだろう。

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