日本人が知らない米国「聖域都市」の謎な実態 「不法移民保護都市」をめぐる米国人の葛藤

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米フロリダ州マイアミは、「聖域都市」から脱退を表明し、これに反対するデモが起こっている(写真:AP/アフロ)

日本では、トランプ大統領の「移民入国制限」ばかりが話題になっているそうだが、米国国内では移民をめぐって1月25日署名されたもう1つの大統領令が、同様に大きな波紋を呼んでいる。その大統領令とは、「入国管理当局への協力を拒否する都市、つまりサンクチュアリシティ(聖域都市)には、連邦補助金の交付を停止する」という内容のものだ。

「聖域都市」とは聞き慣れない言葉かもしれないが、米国には不法移民を保護しているこうした自治体がなんと300以上もある。鳥獣保護や海洋保護を行う「保護区(サンクチュアリ)」というものは、誰でも聞いたことがあるだろうし、馴染みもあるだろう。しかし、違法な形で米国へ入ってきた人たちをかくまう聖域都市が、そんなにもあると知ったときには、脳みそがフリーズ状態になった。「は? 不法移民を保護する?」。正直意味がわからなかった。

しかし米国は、さまざまな矛盾がある国だ。大麻利用のように連邦法で違法とされることが州法では合法だったり、1つの事柄でも州ごとに真逆の解釈をされることがあったりと、常識で考えるとおかしいことが、たくさん存在している。そしてこの「よくわからない感じ」こそが、現在の米国そのものである。

「不法滞在者」の日本人も少なくない

聖域都市では、違法な形で滞在する外国人が、強制送還されることなく生活を送ることが可能だ。聖域都市とは、正しくは難民を含む移民の受け入れに寛大な政策を取る自治体を指しているのだが、今では何となく「聖域都市=不法滞在および不法移民保護区」と解釈されることのほうが多い。これらの都市では、不法移民を強制送還させようとする米政府の入国管理当局への協力、助力を拒否しているからだ。

トランプ大統領の発した「メキシコに壁をつくる」という言葉が一躍有名になってしまったため、米国に住む不法滞在者の多くが、あたかも国境を乗り越えて潜伏するイメージがあるかもしれない。しかし、実際には短期の観光や期限付きの商用ビザで訪米したにもかかわらず、滞在有効期限が切れた後にも居座ることで「不法滞在者」になる場合がほとんどだ。非合法のステータスしかないのに普通に米国で暮らし、働いてしまう外国人の中には、残念ながら日本人もいる。

私が暮らす街から遠くないワシントン州シアトルは、ニューヨークやロサンゼルスと並び、米国に約1100万人いるといわれている不法移民の12%が集まっているとされる、12の都市のひとつだ。こうした都市では、不法移民へのサービスがかなり手厚い。

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