震災6年、福島原発の廃炉作業は「登山口」だ 燃料デブリ取り出しへの遠い道のり

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フェーシングを終えた敷地(代表撮影)

線量低減に寄与したのが、がれきの撤去や放射性物質が付着した樹木の伐採、「フェーシング」と呼ばれるモルタルの吹き付けだ。取材対応に当たった川村信一・福島第一廃炉推進カンパニー広報担当は、「がれきを取り除いたり、土を剥いだりする地味な仕事が、線量低減に大きく貢献した」と解説した。

もっとも、原子炉建屋近くでの作業環境の厳しさは歴然としている。

建屋カバーの解体が進む1号機原子炉建屋(代表撮影)

記者を乗せて大型休憩所前を出発したバスは、事故を起こした1~3号機の原子炉建屋が一望できる地点へと移動した。ここは海抜35メートル地点の高台で、同10メートル地点に建つ1号機の原子炉建屋から80メートルしか離れていない。この場所では、建屋が破損した1号機や3号機などから直接ガンマ線が注ぐため、今なお放射線量が高い。

東電の広報担当者が持参した線量計は、毎時160マイクロシーベルトの値を示した。7時間もいれば、一般人の年間追加被曝線量限度の累積1ミリシーベルトに達する値だ。

川村氏から説明を受けているうちに、同行していた記者の積算線量計が甲高い音を発した。積算線量が20マイクロシーベルトに達するとアラームが鳴る仕組みだ。取材に際しては100マイクロシーベルトを限度にしており、5回鳴ったら取材は打ち切りになる。

高台からは炉心溶融事故を起こした1~3号機の建屋が間近に見えた。爆発で大きく壊れた1号機の原子炉建屋では、建屋カバーの解体作業が続けられている。飛散防止対策が進んだことで壁パネルが撤去され、3月中には建屋カバーの柱や梁を改造して防風シートを設置する作業に着手する。ただ、使用済み燃料の燃料取り出し完了までには数年かかる見通しだ。

使用済み燃料取り出し作業で手応え

自走式ロボットが投入された2号機原子炉建屋(代表撮影)

水素爆発を免れた2号機建屋は事故前からの原形をとどめている。しかし、炉心溶融を起こしたため、格納容器内部の放射線量は極めて高く、人間が近づくことはできない。

1月末から2月にかけて実施された格納容器内部の調査で、東電はロボットを投入して溶け落ちた燃料(燃料デブリ)のありかを探ろうとした。だが、ロボットが堆積物に乗り上げて動けなくなった。

水素爆発で大破した3号機の原子炉建屋上部はすでに解体が進み、使用済み燃料を取り出すためのカバーの設置作業が進められていた。

使用済み燃料取り出しに向けた準備作業が進む3号機(代表撮影)

当初、3号機の原子炉建屋の最上階は、放射線量が高く、除染や遮へい体の設置に想定以上の時間を要した。だが、さまざまな形や大きさ、材質の遮へい体を敷き詰めた結果、最上階の床面から1.2メートルの高さでの空間線量は設置前の毎時38.3ミリシーベルトから同1.8ミリシーベルトへと約95%もの低減に成功。機器の設置を有人作業でできるようになった。現在、3号機の使用済み燃料プールに残されている燃料集合体は566体。これを2018年度中頃から2年かけて遠隔操作によって取り出す。

プールからの使用済み燃料の取り出し作業では、すでに4号機で1553体の燃料を無事に取り出し終えた実績がある。ただし3号機では放射線レベルが依然として高いことから、「燃料の取り出しは目視による作業ができた4号機とは異なり、離れた場所でカメラを用いての遠隔操作で行わざるをえない。どこまで同じようにできるかが課題になる」(増田尚宏・東京電力ホールディングス常務執行役・福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント)。

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