なぜ味の素はアフリカ市場で強いのか? エジプトの食卓に革命を起こす男(下)

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いまさらだが、味の素はうま味調味料である。

味の素グループは世界一のアミノ酸メーカーとして、さまざまな分野でアミノ酸事業を展開しているが、味の素の主成分もこのアミノ酸の一種(グルタミン酸ナトリウム、MSG)。料理に「うま味」を添加する調味料として百年以上前に開発された。

うま味とは、甘味や酸味などと同じ味覚のひとつだ。単体で「旨さ」を発揮するものではないが、うま味成分が加わることで肉や魚介を使ったような、いわゆる〝コク〟が増した味になる。

肉がなくても肉の味。それは的確に味の素の食品としての特性を言い当てたものだった。ロッズ以外にもいろいろな料理に使い始めたエジプト人ユーザーの味覚は、宇治さんたちが驚くほど味の素を理解しているようだ。

ちなみに、「化学調味料」という言葉は昭和30年代にテレビの料理番組が作った名称。現在では「うま味調味料」という呼び名が正式には使われている。

貧困層にこそ浸透する味の素

肉を買いたくても、少ししか買えない。貧しいおかずでも、美味しく食べたい。そうした多くのエジプト庶民にこそ味の素は認知され、必要とされ始めている。

今年は7月から8月にかけてがラマダン(断食月)だ。期間中、イスラム教徒は日の出から日没までいっさい水も食べものも口にしない。しかし、日没後には家族や友人が集まり普段より盛大に食事をする。公共広場では貧しい人たちに無料で食事も振る舞う。

うま味調味料は、エジプトの大食漢たちをさらに満足させられるか

この日没後の食事「イフタール」で、最初によく供されるのが鶏肉の煮汁である。エジプトでの次なるキーメニューに、宇治さんはこのイフタールのチキンスープを選び、今夏から新たなキャンペーンを開始した。

「ラマダン・カリーム(ラマダンおめでとう)」

ロッズに替わり、チキンスープを配した新しいチラシを手渡す。祝祭気分もあってか、スークでの買い物客の反応は上々だ。

先のエハーブさんもイスラム教徒。もちろん豚肉は食べないが、鶏肉は大好きだという。新商品を作るなら、ぜひ味の素のチキン味を作って欲しいと注文を出していたほどだ。好物の鶏肉の味をスープなどで安価に楽しみたいのだそうだ。

イフタールスープは、ラマダンで毎日ほぼすべての人が食べるメニューである。このイスラム世界ならではの宗教行事が、味の素が広まる好機と宇治さんは期待している。

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