ダイソン「28万円照明」は一体何が新しいのか 「照明環境のイノベーション」に挑戦

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ダイソン製LED照明の基本的な優位性はJake Dyson Products時代(ダイソン創業者ジェームズ・ダイソンの息子ジェイクが立ち上げた別会社)に開発されたシーシス時代から変わっていない。

一般にLED照明は長寿命と言われる。しかし発光時の温度上昇で高温下に置かれるとLEDの寿命は大幅に短くなる。発光時間が短くなるだけでなく、青系LEDを白色化するための黄フィルターが変色するなどの劣化が起こり、設計通りの演色性能を出せなくなる。

このため個々のLEDに流す電流を抑制し、多数のLEDを並列に並べることで問題を回避することが多い。LEDは光源が小さいため、多数のLEDを並べるとシャープな影が多数重なり合って出てしまうのだが、この光を広散させるフィルターを通すことで面光源として“光を柔らかく”したライトも少なくない。

従来の蛍光灯に代わる光源として考えるならば、これでも照明設計は可能だが、ジェイクはLED光源が持つ特徴を商品のよさに変えようと考えた。単一光源のLEDで充分な明るさが出せれば、シェードの設計を厳密に行うことで照射する面積をコントロールできる。

シーシスは熱を瞬間的に移動させることが可能なヒートパイプ技術を用いることでLEDの温度を下げ、単一あるいは少ないLED素子で高輝度を発生させつつ、37年間の寿命を実現した。そのうえで、自由自在に高さと位置を指先で移動させられる独自のメカを組み合わせるので、本当に必要な部分だけを照らし、光源が視野に入ってまぶしい思いもすることもない。

優れた商品だがその特性を理解していなければ、なかなかその高価な価格に見合う価値を見いだせない。ラディカルなデザインの高級照明としてしか、消費者には受け取られていなかった可能性がある。

上記で解説したシーシスの説明は2014年1月にジェイク・ダイソン氏から聞いた話を元にしているが、3月6日、B2B市場向けの新製品「Cu-Beam Duo(キュー・ビーム・デュオ、実勢価格28万円)」のプレゼンテーションでも、まるまる前半の半分を用いて同じ解説がされていた。ダイソン製LED照明のよさ、独自性が理解されてこなかったということの証左とも言える。

「省電力で明るい」だけではない

3月6日に発表された、B2B市場向けの新製品「Cu-Beam Duo」実勢価格28万円(写真:ダイソン提供)

さて、ではキュー・ビーム・デュオは何が変わったのだろう?

ヒートパイプを組み込み、大型の放熱フィンをプロダクトデザイン全体に取り込むことでLED素子の放熱性能を高め、素子当たりの光量を大幅に高めている点は従来と同じだ。

3.2×1.6メートルの範囲を照らした場合、ほぼ均一に全面を色温度4000K/722ルクス(最大値)で照らすことができる。発光効率も1ワットあたり113ルーメン(最大値)と高効率であることも付け加えておこう。ただ、省電力で単に明るいというだけではない。

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