「たくさん集めて落とす」新卒採用が変わる 学生が企業を逆面接?

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これまでの「たくさん集めてたくさん落とす」方式は、多くの「嘘」も生んできた。「キャリタス就活」を運営するディスコが昨年10月に17年卒の学生を対象に実施したアンケートでは、実に7割以上が「就職活動で嘘をついたことがある」と回答。ライバルの中で少しでも目立つために、嘘やエピソードの「盛り」は致し方ないとの意識が広まっているようだ。しかし、それも度が過ぎれば、働き始めてからのミスマッチ露呈、離職へとつながってしまう。

「盛る」必要をなくす

「最初から、学生も企業もお互いを見せ合って、『盛る』必要をなくそうというのが我々のサービスの思想です」

そう語るのは、ビジネスSNSを提供するウォンテッドリーの大谷昌継・コーポレートチームマネージャー。同社のサービスを、転職だけでなく新卒採用でも使う企業が増えている。その中で昨年3月のリリース以来、人気を得ているのが、社内の出来事や社員の生の声をブログ風につづれる「フィード機能」だ。企業の「素」の姿が見える内容で、更新も頻繁。コンテンツとして面白ければSNSで拡散され、PVが10万を超えることもある。大谷さんによれば、それを見ていると、学生は自分がその会社に合うかどうか、自然にわかってくる。

「合うと思えば、ウォンテッドリーでは志望動機がなくても、『話を聞きに行きたい』ボタンを押してお茶を飲みにいけます。そこでお互いに良ければインターンや採用に進める。逆に合わない人には『合わない』というメッセージが強烈に伝わるので、まず来なくなる。結果的に、マッチングの精度も上がります」(大谷さん)

「すっぽんぽん採用」を打ち出す会社もある。東京を拠点にタクシー・ハイヤー・バス事業を運営する国際自動車だ。スーツ不要。履歴書は他社用のコピーでOK。面接も、向いている仕事を一緒に考えるというキャリアカウンセリング形式。人財採用課の青木雅宏さんは言う。

「学生には就活の悩みを正直に話してもらい、会社も抱えている課題をありのままに話します。腹を割って話した結果、他の企業のほうが向いているのではとアドバイスし、『薦められた会社に受かりました』とお礼の電話をもらうこともあります」

中高年ドライバーが多い印象のタクシー業界だが「すっぽんぽん採用」の効果か、同社では10年に1人だった大卒ドライバーが17年卒は150人にまで急増。18年卒についても同規模の採用を目指している。

マッチング重視の究極とも言えるのは、リクルートライフスタイルが今年1月に発表した「新・新卒採用」。大学3年から27歳までいつでもエントリー可能で、卒業後2年以内であれば、入社時期を選べる。

同社の人材開発グループの飯田竜一さんは、ここ数年、経団連が示す採用のスケジュールが大きく変動する中で「この期間内に決めなければ」と焦る余りに、十分に考えずに就活する学生や、面接に行きたくても、試合があって行けないと悩む体育会の学生を見てきた。そこで「窮屈に就活のタイミングを決めたり、卒業したらすぐ入社、と決める必要があるのかなと思い始めた」(飯田さん)。

実務型の長期インターンや、学生・社会人がざっくばらんに語り合うイベントなどさまざまな機会を通じて、仕事について考えを巡らせたうえで、自分がいいと思うタイミングで就活。内定後も留学や旅行などやりたいことをやって、心構えができてから入社する。それが「新・新卒採用」の発想だという。

就活サイト一辺倒ではなく、より多様化したツールを、個々の学生や企業が選び取っていく。そんな時代が来ている。(編集部・石臥薫子)

※AERA 2017年3月13日号

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