警察とマスコミ、偽らざる「不適切な」関係 なぜ記者クラブは警察批判ができないのか

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実名報道も議論を呼ぶところだ。日本新聞協会は、警察に実名発表を求める理由について、(1)事実の核心、(2)取材の起点、(3)真実性の担保、を挙げており、その意味として、〈1〉訴求力と事実の重み、〈2〉権力不正の追及機能、〈3〉訴えたい被害者、〈4〉事実の尊厳、を挙げている。筆者にはへ理屈のようにも聞こえるが、新聞各社の報道基準も実名報道の原則を明文化しているものが多い。

そのうえで日本新聞協会は「報道によって引き起こされるあらゆる問題の責任は、私たち報道機関が全面的に引き受けます」と断言した(日本新聞協会2006年12月「実名と報道」から)。

警察という権力に取材拒否されたり恫喝されれば、すぐに謝罪したり、おわび記事を書く新聞が、弱い立場の市民には謝らない。警察でも誤りがあっても、容易にはその事実を認めないし、事実を隠蔽する。最近のマスコミは警察組織と非常によく似ている。これでは権力に対する監視などは及びもつかない。

防犯カメラの映像公開は安易な行為

犯罪捜査は秘密裡に行われることが大原則だ。警察の犯罪捜査の基本を定める犯罪捜査規範第9条には、「捜査を行うに当たっては、秘密を厳守し、捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに、被疑者、被害者、その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない」とある。このため、警察庁は治安に重大な影響を及ぼし、または社会的に著しく危険性の高い凶悪または重要な犯罪の指名手配被疑者に限定して、「公開捜査」を行っている。

警察の捜査で、防犯カメラの映像が頻繁に使われていることはすでに説明したが(視カメラやNシステム、DNA鑑定も危ない」)、最近では、警視庁刑事部が防犯カメラの映像を公開捜査と称して、Twitter上で公開している。ほかの道府県警察も、警察の入手した防犯カメラ映像の人物の身元を割り出すため、映像をマスコミに提供して公開するケースが目立つ。

マスコミに提供される監視カメラ映像の公開は、警察庁の公開捜査の原則には該当しない。警察が提供するこうした画像をどのような基準と判断で報道しているのか。このことを何社かの記者に尋ねたが、明確な答えはなかった。こうした報道は名誉毀損などの犯罪に該当するおそれがあるほか、プライバシーを侵害する不法行為に当たるとして、損害賠償を請求される可能性もある。

無原則な警察の公開捜査に手を貸すような、安易な映像の公開にマスコミは協力すべきではない。防犯カメラの映像の入手とその利用については、プライバシー保護の観点から厳格な法規制が必要だ。今こそ、警察とマスコミの”不適切関係”を、再検証しなければならないだろう。

原田 宏二 ジャーナリスト

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はらだ こうじ / Koji Harada

元・北海道警察釧路方面本部長(警視長)。2004年2月、北海道警察の裏金疑惑を告発。以降、警察改革を訴えて活動中。著書に『警察内部告発者』(講談社)、『警察崩壊』(旬報社)、『警察捜査の正体』(講談社現代新書)等がある。

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