警察とマスコミ、偽らざる「不適切な」関係 なぜ記者クラブは警察批判ができないのか

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警察の報道発表は「報道メモ」によって、各警察署の報道連絡責任者が広報課を通じ、記者クラブ加盟各社に対して行われる。重大事件については広報課が記者会見をセットする。

いわば警察は公権力の代表格だ。法の執行者として、無謬性を標榜したい警察にとって、職員の不祥事は隠したい情報といえる。警察内部には、不祥事はマスコミに”バレたとき”に不祥事になる、との根強い考え方がある。

1999年から2000年にかけて、警察をめぐる組織的な不祥事が続発し、国民の警察に対する信頼が大きく失墜。そのため国家公安委員会の求めで、2000年7月、各界の有識者による警察刷新会議が「警察刷新に関する緊急提言」を示した。提言では、犯罪捜査の秘匿性を強調するあまり、警察行政が閉鎖的になるとともに、本来公開すべき情報が公開されないおそれがあると指摘された。

そのうえで、警察職員の懲戒免職事案は発表し、懲戒免職以外の懲戒事案についても、職務執行に関連する行為(被疑者護送中における逃走事案など)や、私的な行為であっても重大なもの(飲酒運転に起因する交通事故など)は、発表するべきだとした。

自殺や任意の案件は原則発表しない

報道連絡要領においては、捜査上あるいは関係者の人権の保護、名誉の保持上、特に支障のあるものを除き、積極的に発表するとしている。だがその判断は、公益性、類似事件の申告の促進、同種犯罪の予防効果を総合的に比較勘案した、個々の事案で判断するとしている。報道メモの内容は、件名、日時、場所、当事者(被疑者、被害者)の住所(国籍)、職業、氏名(原則実名)、男女別、年齢、事案概要、参考事項となっている。

さらに作成時の留意事項として、事実を簡潔明瞭かつ正確に記載し、推定にわたる事項は記載しない、住所は条丁目までにとどめて枝番は記載しない、前科・前歴・病歴などプライバシーに関するものは記載しないとなっているが、最近は逮捕した被疑者の認否については報道されることが多い。

実際に報道される記事を見ると、警察の発表は主として、以下のようなものであることがわかる。

(1)発生した事件のうち殺人事件などの重要事件

(2)死亡交通事故やひき逃げなどの悪質な交通事故、火災、死者が生じた労災事故など(自殺は原則発表しない)

(3)被疑者を逮捕した事件(任意で捜査した事件は発表しない)

(4)警察職員の不祥事は、職員を逮捕、あるいは書類送検した事案(ただし、警察職員の不祥事に関する発表は、たとえば「50歳代男性」のように氏名は明らかにしないことが多い)

道警職員の不祥事を追及している北方ジャーナルの小笠原淳記者によると、2015年8月以降年末までに、警察職員の不祥事に関する報道メモで氏名と年齢が明らかにされたのは42人のうち2人だけ。その2人も勤務先は明らかにされず、職業はいずれも単に「地方公務員(警察官)」とされ、残り40人の名は「A」「B」などのローマ字表記がほとんどで、一度に32人が処分された函館のケースでは、うち32人がひとくくりに「その他職員」とされた。

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