「観光列車大競争」でJR九州が勝ち残る秘策 凄腕デザイナーがデザインを白紙にした理由

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豪華な内装はJR九州の十八番だ(撮影:尾形文繁)

2015年12月、JR九州は翌年3月のダイヤ改正において、「九州横断特急」が熊本―人吉間の運転を取りやめ、代わりに新たな観光列車を投入すると発表。2016年4月13日に列車名を含めた観光列車の概要を公開した。青柳俊彦社長は「今までの観光列車は地元とのコラボレーションを言いながらも、なかなかそういうイメージがなかった。今度の観光列車では地域といっしょに造ったということをアピールしていきたいとお伝えした」と発表当時の状況を振り返る。

熊本―人吉間でも「SL人吉」や「いさぶろう・しんぺい」といった観光列車がすでに運行しており、いずれも大人気。停車駅で地元の女性が名産品を販売するなど、地域との密着ぶりも申し分ない。それでも、青柳社長にとっては、地域とのコラボが足りないように見えた。これまでのJR九州の観光列車はJR九州が車両を造ってから、地元と一緒に活用方法を考えてきたという。今回はさらに踏み込んで、車両製造の企画段階から地元の意向を取り入れていきたいと考えたのだ。

熊本地震でコンセプトを見直し

新観光列車投入を発表した翌日の14日、熊本地震が発生した。水戸岡氏は「デザインプランのすべてが変わった」と当時を振り返る。当初は「軽い感じのスイートでトレンディ」な列車をイメージしていた。が、地震後に行われた水戸岡氏の最初のプレゼンで、青柳社長は「そうじゃない」とダメ出しした。「復興のシンボルとなるような列車を目指してほしい」。

水戸岡氏は当初のデザインや素材選びのすべてを白紙に戻した。地元に何度も足を運び、地域に住む人の声をきめ細かく「取材」した。水戸岡氏にとって初めての経験。「面倒なことが多くデザイナーにとって正解というわけではないが、これからはこうしたやり方もしないといけない」と水戸岡氏は語る。「自分で創造的な方法を考えるだけでなく、地域の人と一緒に創造的なデザイン活動をしないと本当の地域密着とはいえない。その意味では自分としてもあらためて車両デザインの勉強になった」。

2月27日、「かわせみ やませみ」のお披露目式であいさつに立った青柳社長は、「他社が続々と豪華列車を投入する中、足を運んでいただきありがとうございます」と話を切り出した。鉄道会社の社長が問われもしないうちから他社の話をするのは異例だ。

今年は豪華列車や観光列車の投入が集中する年。JR東日本「トランスイート四季島」、JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR四国「四国まんなか千年ものがたり」、東武鉄道「SL大樹」、東京急行電鉄・伊豆急行「ザ・ロイヤル・エクスプレス」など、各社が競って豪華列車を投入する。その中には水戸岡氏をデザイナーに起用した列車もある。

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