ANA、ピーチ子会社化の狙いは「JAL包囲網」 出資先増やし、グループ拡大急ぐ

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これまでANAは国内のさまざまな航空会社に出資し、共同運航などを実施してきた。実際にピーチの独自性を尊重するかは不透明だ。

ピーチとバニラは統合か

ANA傘下のLCCにはすでにバニラ・エアがある。順調に黒字を出すピーチとは裏腹に、バニラは台湾路線での競争にさらされ、2016年4〜12月は赤字だ。両社には一部重複する路線があり、効率化が求められる。片野坂社長は「当面は自由に競争させる」としたが、将来的な統合については否定しなかった。またバニラは中長距離国際線への進出を視野に入れている。実現した場合、ANAは路線や機材の効率化のため「近距離をピーチに集約させることもありうる」(航空会社OB)。

国内の中堅航空会社はすでに「ANA色」に染まっている。2015年1月に経営破綻したスカイマークに16.5%を出資し、再生スポンサーとなった。同じく1990年代半ば以降の規制緩和で参入した新興のエア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーは経営難に陥り、ANAの支援を仰いだ。スカイマークは独立性を維持するため、ANAとの共同運航を拒んでいるが、残りの3社はすでにANAの予約システムを用いて共同運航を行っている。

今回、ANAはピーチの企業価値を1100億円弱と見積もり株式の追加取得を行った。直近の純利益の約40倍であり、上場する世界の航空各社のPER(株価収益率)と比較しても高い。証券アナリストは「成長余地があるとはいえ、高値づかみだ」と指摘する。

そこまでして子会社化に踏み切ったのは、「やはりJAL(日本航空)の存在が大きいだろう」と、複数の航空業界関係者は口をそろえる。

2010年の破綻時に公的資金を注入されたJALは、ANAとの公平性を期すため、今年3月まで新規の投資や路線開設を国から制限されてきた。「足かせ」が取れる前に事業を拡大させたい思惑がANAにはある。先述の新興各社はすべて羽田空港を発着する。限られた発着枠がJALの手に渡ることも避けたかった。

国の支援ではからずも高収益体質を手に入れたJALの今後は、4月末発表の中期計画で明らかになる。ANAの焦燥は募るばかりだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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