日本株を支えている「見えない存在」の正体 「ビミョーな円高」でも3月は下げにくそう

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縮小

市場関係者からも「米連邦準備理事会(FRB)はバランスシートの縮小作業にできるだけ早く着手したいと考えているのではないか?」との声が聞かれる。そのためには、利上げを3月と、9月または12月に実施することが妥当との見方が多い。利上げがあってもおかしくない状況だが、インフレは目標水準を下回っているのも事実で、3月利上げについては予断を許さない状況がFOMC会合直前まで続くとみられる。また、為替市場でドル高が一気に強まらない理由として「トランプ政権がドル高を容認しない」という点も、あげられる。

「見えない買い需要」が株価を支えている

このように、目に見える円安ドル高が確認できない地合いにもかかわらず、日経平均は底堅い。その理由の一つとして考えられるのが、日経リンク債の設定に絡んだ先物買いだ。日経リンク債とは、一定の基準日からの日経平均の変動率などによって、償還金額や利率が変動する性質をもった債券である(詳しくは日本証券業協会のHPなどを参照)。例えば「一定期間内で、日経平均が1万9000円を下回らなかったら、年利3%」といった債券が典型的な商品だ。実は、こうした商品が設定されるタイミングでは、リンク債を組成する証券会社の「リスク回避の日経225先物買い」が入るのだ。これはごく簡単に言えば、相場が変動しても証券会社が損失を被らないようにするため、あらかじめ買いを入れておくということだ。

たとえば、少し前の話になるが、1月第4週(1月23-1月27日)の投資部門別売買動向(東京証券取引所が発表)のケースが典型例だったと見られる。この週は、信託銀行による「2700億円の225先物買い」に関心が向かった。市場では「年金が買い出動した」「かんぽ生命が動いた」など、さまざまな思惑が広がった。だが、この買いは日経リンク債の設定によるものだと思われる。

どういうことか。実際、昨年の11月以降、停滞していた日経平均が「トランプ相場」で上昇したことから、償還待ちだった日経リンク債が一気に早期償還したのである。こうした償還金を「元手」に、投資家は再び(投資家は償還の度に再設定するケースが多い)日経リンク債に投資したと思われる。こうした日経リンク債の設定は、通常月末にかけて行われることから、1月第4週に設定が集中したのだと推察する。

一部市場筋の観測だが、今週(2月27日~3月3日)も、2000億円から2500億円ほどの日経リンク債が大手証券会社などによって設定されるという。3月中でみても、まとまった金額の日経リンク債が組成されるとの思惑もある。日経リンク債は月末に組成が集中するケースが多いことから、先物市場は月末までしっかりとした推移が続く可能性がある。ドル円相場が1月より円高にもかかわらず、日経平均が1万9000円台でしっかりとした推移をみせている理由には、こうした日経リンク債に絡んだ「見えない買い需要」も含まれているわけだ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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