焼肉店「にくがとう」がかなり規格外なワケ まるで食のエンタメ!海外ブロガーも注目

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「まるでお葬式の写真を見せるようで、かわいそうという気持ちもあるかもしれない。けれど『カールちゃんありがとう』という感謝の気持ちとともに、おいしい肉を味わうことができれば、お客さんも天国のカールちゃんもハッピーになれる」(三浦さん)。

「にくがとう」は、界隈に勤める金融関係者からも人気だ(撮影:今井康一)

「にくがとう」という店名は、「肉」と「ありがとう」をかけ合わせた言葉。そこには、顧客や従業員だけでなく、牛を育てる生産者や、牛への「ありがとう」という思いが込められているという。

厳選した和牛に、ユニークなメニュー。これをさらに楽しむために欠かさないのが、肉やメニューの説明だ。「これは尾崎牛ですよ」といった、牛の「出自」や生産者の情報、食べ方に関する説明はできるだけ丁寧にする。「知りたい人には和牛の歴史的な背景など、奥が深いネタも話している。理解が深まるほど、食べることが楽しくなるから、肉の愛好者を増やしたい。店員はてんてこまいの忙しさでも、必要な説明をおろそかにしないよう伝えている」(三浦さん)

「和牛の飼育技術を海外へ伝えたい」

ところで、「にくがとう」は仮想通貨の一種である、ビットコインで支払いができる「世界初の焼肉店」としても話題になっている。これも、「いろいろな通貨で肉を食べられたら楽しい、というお客さんに来てもらいたい」という三浦さんの思いがあるから。店の界隈は証券会社などが多く、金融機関勤務者からもこの点で注目されているという。

和牛へのこだわりから、牛の飼育にまで携わった三浦さんだが、将来的には和牛飼育のノウハウを世界に「伝授」したいという野望を抱いている。「和牛の値段は、店を始めた3年前に比べても上昇している。子牛の生産に携わっている繁殖農家の数が減っていることが背景にある。将来、和牛は一部の富裕層のためのものとなって一般庶民に手が届かなくなり、海外に流れてしまったら、ますます価格高騰が起きるのではないか」と三浦さんは危惧する。

価格高騰に歯止めをかけるには、和牛の飼育頭数を増やすしかない。しかし、和牛の種類にもよるが、飼育の初期投資は最大数億円とも言われるうえ、出荷できるまで28カ月間は売り上げも立たない。その間、病気にかかる可能性があるなどリスクが大きく、日本では担い手が減り続けている。こうした中、「飲食店が生産者との結びつきを深めたり、和牛の飼育技術を海外に伝えて世界で生産者を増やすための手伝いをしたりできたら」と三浦さんは話す。

「今後、高齢化に伴って日本の和牛が手に入りにくくなるのであれば、和牛を生産する技術と種を、世界の生産者と組み提供できたらいい。日本の和牛ということにはならないが、世界が一緒になって作るという意味で『地球牛』というおいしい牛肉を食べられるようになるかもしれない」(三浦さん)。焼肉店としてだけではなく、生産者の立場でも革新を目指すにくがとう。その一歩は、肉を楽しみながら、その知識を深める「にくがとうファン」を増やすことから始まる。

斉藤 真紀子 ライター

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さいとう まきこ / Makiko Saito

日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集スタッフ、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリーに。ウェブマガジン「キューバ倶楽部」編集長。共著に『お客さまはぬいぐるみ 夢を届けるウナギトラベル物語』

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