「教育困難校」が拡大の一途をたどる根本理由 「勉強は価値がない」という発想が蔓延

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加えて、各地の中堅校で生徒の学習意欲や高校生活への意欲の低下を嘆く声を非常によく耳にする。本来、伸びる能力を持っているのに、勉強して上のレベルまで到達しようとしないのである。長い期間、こつこつと行わなければならない受験勉強をしたくないので、推薦入試やAO入試を最初から希望するなど、学習から距離を置こうとする生徒が増えているのだ。この姿勢は、まさに「教育困難校」のものである。

日本の児童・生徒の学習時間の二極分化

実は、日本の児童・生徒の学習時間の二極分化は、すでに10年ほど前から指摘されており、特に高校では学力階層による差が著しいと言われている。たとえば、2016年に発表された、ベネッセ教育総合研究所が2015年に実施した「第5回学習基本調査」の結果では、高校生の学習時間が調査を始めた1990年以降で初めて増加したと報じられた。しかし、そこには「中上位層」を中心にとの記述がある。下位層はほとんど勉強しない現状が続いていると思う。

この連載でこれまで述べてきたように、「教育困難校」は高校入学以前の学校生活で学力を伸ばすことができなかった中学生たちが進学する場である。そうなった原因は家庭環境、家族関係、本人が生来持っている疾病や、何らかの障害を適切にケアできなかったこと、さらに学校でのいじめや不登校経験などさまざまだが、彼らは共通するものを持っている。そのひとつが、学習への苦手感と勉強ができない自分を守るために勉強は価値のないものと見なし、学習から距離を置こうとする姿勢である。

勉強は大事ではないからしなくてもいい、アルバイトや野球やサッカー、ダンスやアイドル活動をしていれば、勉強はしなくてもいい、と実際に発言する生徒や保護者が大勢いる。

しかも、この考え方は「教育困難校」だけにとどまらず、先述のように「中堅校」の中にも拡大しているように筆者には思える(何が原因で学力中間層までこの考え方が広がったのかの考察はここでは触れないが)。学習に価値を見いださずに距離を置こうとする生徒が多ければ、どれほど受験偏差値が高くとも、そこは「教育困難校」であると言えるかもしれない。

「教育困難校」は、個々の高校が改革を進めることだけでは決して解消しない。また、現在の日本では隠れ「教育困難校」とでも言うべき高校が確実に増加している。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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