女性活躍阻む「日本型転勤」はなぜ生まれたか 転勤ありの夫婦は「子を持たない」が最適解?

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女性が総合職として働くことが珍しくなくなってきた今、日本の会社の「転勤」の問題が浮き彫りになってきました(写真:kou / PIXTA)
安倍内閣が「女性の活躍推進」を打ち出し、「2020年に指導的地位に占める女性の割合30%」という目標を掲げていながら、現実はまったく追いついていません。世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数も、2015年の101位から2016年には111位とさらに下がっています。
では、なぜ日本の女性はこんなにも活躍していないのでしょうか。男女平等法制は整っています。社会意識も、現在はけっして男女差別的ではありません。それでも女性が活躍できないのは、日本独特の雇用システムに原因があるのです。この連載では、いくつかの切り口から、日本型雇用システムがいかに女性の活躍を阻害しているのかを明らかにしていきたいと思います。

 

今回取り上げるのは「転勤」問題です。転勤は日本の正社員にとって避けられない運命だと思われてきましたが、正社員は転勤を受け入れなければならないなどという規定は、実は六法全書のどこを探しても存在しません。むしろ、労働基準法の労働条件明示義務には「就業の場所及び従事すべき業務」が入っています。

ところが、ほとんどすべての会社の就業規則には、「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所および従事する業務の変更を命ずることがあり」、「労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない」といった規定が含まれており、これが規範化しています。

「家庭生活上の不利益は、通常甘受すべき程度のもの」

日本の裁判所も、よほどのことがないかぎり転勤を伴う配転を認めてきました。たとえば、1986年の「東亜ペイント事件」最高裁判決では、高齢の母と保育士の妻と2歳児を抱えた男性社員に神戸から名古屋への遠距離配転を命じ、拒否したことを理由に懲戒解雇した事案について、「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではな」く、「家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のもの」だと一蹴しています。

こうした判例法理のもとになった日本型雇用慣行は、戦後日本の労使が共同で作り上げてきたものです。彼らにとって、たまたま従事している仕事や働いている職場がなくなったからといって解雇されてしまうことが最も避けるべきことであり、その場合でも別の仕事や別の職場に移って雇用が維持され、妻子を養える程度の年功賃金を稼ぎ続けることが、最も望ましいことでした。

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