史上初!「親子4人」騎手が実現、家族が見る夢 震災を乗り越えた福島出身・木幡騎手の一家

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昨年3月、親子3人で初めて同一レースに騎乗した2男の木幡巧也さん、初広さん、長男の初也さん(左から)。2017年3月から3男の育也さんも騎手になり、今年は親子4人での同一レース騎乗が見られそうだ(撮影:筆者)
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春は出会いと別れの季節。競馬界も同じだ。

毎年、中央競馬の2月最終週は去る人を送る週。そして、3月第1週は来る人を迎える週だ。騎手免許と調教師免許の更新があり、3月1日付で新規騎手と調教師が誕生する。

今年はスーパージョッキー武豊騎手の弟である武幸四郎騎手が調教師に転身し、2月26日を最後に騎手を引退した。田中博康騎手も31歳の若さで調教師となり騎手を引退した。一方、3月1日付で新たに騎手免許を受けた新規騎手は5人。これでJRA所属騎手は136人となった。

この新規騎手の中に空前絶後の記録をつくったジョッキーがいる。木幡(こわた)育也さん(18)だ。2月7日にJRA競馬学校騎手課程33期生として卒業。同9日にJRA新規騎手免許試験に合格した。

騎手試験に合格した木幡育也さん(右)とがっちり握手し、祝福する父の初広さん(撮影:筆者)

関東の名門藤沢和雄厩舎に所属する。現役最年長騎手の木幡初広さん(51)が父。初広さんの長男初也さん(21)、2男巧也さん(20)も中央競馬の騎手で、育也さんは3男だ。父と2人の兄に続いて騎手となった。

父の初広さんは福島出身、実家は津波で被災した

中央競馬で親子4人がいずれも騎手となったのは史上初めて。しかも全員が現役だ。少子化の時代にあって今後ほぼ破られないような記録が生まれた。スポーツ界広しといえども、現役の親子4人が同じ舞台で勝負するのは極めてまれなことだろう。これは「日本一幸せな父親」とみんなで夢を追い続けた家族の物語だ。

初広さんは1984年3月に騎手としてデビューした。昭和59年のことである。今や昭和デビューは数えるほどしかいない。今の騎手は地方競馬出身や外国人を除けば1982年開校の競馬学校の卒業生だが、初広さんだけがそれ以前に騎手養成所が置かれていた、馬事公苑の騎手候補生出身である。現役最年長ならではといっていい。

福島県の南相馬市原町区出身。相馬野馬追のマチに生まれ、子供の頃から家には馬がいた。自身も騎手を目指したことがあるという父の初身さんから馬乗りを教わった。初広さんは相馬野馬追の甲冑(かっちゅう)競馬にも出場していたという。父の夢をかなえて騎手となった。騎手としては34年目を迎えて2月26日終了現在でJRA通算780勝。重賞8勝を挙げている。GⅠ勝ちこそないが、確かな手腕を発揮した名手である。

初広さんの出身地は2011年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けた。実家は海沿いにあり、津波で被災した。加えて、実家は東京電力福島第1原発から20キロ圏内にあり、当時は警戒区域となり避難を余儀なくされた。

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