freeeとマネーフォワード、特許係争の内実 真っ向から対立する両社の主張

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2月下旬現在、freeeとマネーフォワードの間で書面のやりとりが続いている。この訴訟に知財の専門家が関心を示しているのは、内閣の知的財産戦略本部が2016年5月に策定した「知的財産推進計画2016」に、知財訴訟の運用ルールを緩和する方向性が示されているからだ。

一般に日本の裁判は原告側の立証責任が極めて重く、知財の訴訟においてもそれは例外ではない。本件のようなソフトウエアの特許侵害を立証するには、被告のシステム設計書やソースコードといった、いわば社内機密に匹敵する情報を入手する必要がある。

そうした情報を合法的に入手しようと思えば、裁判所から被告に対し、文書提出命令を出してもらうしかない。現在、そのハードルは極めて高く、立証に必要十分な文書の提出命令が出されることはめったにない。特許登録をするということは、自社の技術の中身を公表して権利を守ることなのに、侵害の事実を立証することがほぼ不可能となれば、特許登録そのものが無駄になってしまう。由々しき問題なのだ。

そこで検討されているのが文書提出命令のハードル引き下げだ。「今後、文書提出命令のハードルを下げる方向で、紛争処理に関する規定を定めている特許法105条が改正される可能性は高い。法改正に先駆けて、文書提出命令の要件が緩和された先行事例となることを狙っているのかもしれない」(知財に詳しい鮫島正洋弁護士)という。

成長分野における争奪戦

クラウド会計ソフトの普及率は、まだ数%というレベルだ。ICT(情報通信技術)専門のコンサル会社・MM総研が、個人事業主を対象に2016年12月に実施したアンケート調査「クラウド会計ソフトの利用状況調査」によれば、帳簿の記帳に、いわゆる会計ソフトを利用している割合は、いまだに3割強。残る7割弱は、文具店で売っている帳簿への手書きだったり、エクセルなどの表計算ソフトを使っていたり、あるいは、会計ソフトを利用しているのかどうかもわからないと回答している。

さらに、全体の3割にとどまる会計ソフト利用者は、大半はPCインストール型の会計ソフトの利用者で、クラウド会計ソフトを利用しているのはそのうちの1割弱。全体の3%程度でしかない。

個人事業主だけでなく、法人も調査対象に加えて同様のアンケート調査を実施しているデジタルインファクトの調査でも、2016年7月時点でのクラウド会計ソフト利用率は、全体の4.4%という結果が出ている。

今回の訴訟は、現時点では、全体のわずか3~4%の世界の中での争いだが、クラウド会計ソフトの利便性が認識され始めれば、加速度的に利用者が増える可能性を秘めている。コップの中の争いが、巨大市場の争奪戦に化ける日は、遠からずやってくるのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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