AI導入で労働の価値はどう変わるのか 富国生命の保険金査定業務でもAIが活躍

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しかし、派遣社員を中心とした急速な人員増強策が裏目に出る。労働者派遣法の改正で、同一の事業所へ派遣できる期間は原則3年となり、その後直接雇用に切り替えても、1年更新で最長6年までしか雇用できない。せっかく習熟したスキルが途切れないようにするには正社員として採用すればいいが、人事部門の判断としては難しい。同社では2017年3月末には30人強の派遣社員が契約期限を迎えようとしていた。そこで思いついたのが、苦情処理の分類で使っていたワトソンを査定業務にも生かせないかという発想だった。

同社の八田高・保険金部長は「ワトソンの精度は90%だが、人間によるチェックと組み合わせれば、十分実用に堪える」と話す。

ワトソン導入前には、人間Aと人間Bが入力した診断書データを突き合わせ、違いが出た場合には人間Cがそれを修正していた。現在はワトソンが人間Bに取って代わったが、人間Cによるチェックは残っている。ワトソンも人間も間違うことがあるためだ。

たとえば、診断書の自由記載欄にたまたま記載された「入院」の文字をワトソンが読み取り、本当は入院していないのに「入院した」と判断してしまうことがある。その場合は、人間Cが自由記載欄の記述から正しい判断を導き出す。

人間の仕事はもっと意義を感じられるものに

保険金の不払い問題は今でも保険各社の経営や運営に大きな影を投げかけている。再発防止のため、各社はさまざまな取り組みを行ってきた。多重チェックや給付金のワークフローシステムの導入、検証を行う支払い監査室の新設、契約者の案内を行う案内チームの新設……。多くの人手とコストを割いて対策に努めている。

だが、そうした仕事の大半は、地味ながら多くの人手を伴う根気のいる仕事だ。富国生命も、ワトソン導入前は女性派遣社員の人手をかけて、コツコツと査定業務を進めていた。

「査定の仕事では、ある人が入力したデータを、ほかの人がもう一度見て確かめる。でも、やっている人は、私の仕事はなんて意味のない仕事なの、という無力感や疲労感を覚えている。しかしワトソン導入後は、(先の例でいうと)Cさんの仕事は人間でなければできないと意識されるようになった。貢献しているという実感が仕事には必要だ」

前出の八田部長はそのように話す。

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