ベテラン弁護士が「離婚はやめろ」と説くワケ 1万人の人生からわかった「幸運」を呼ぶ法則

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ただし、言わずもがなのことですが、DV(家庭内暴力)に苦しめられているといった場合はもちろん別です。これに対処することは「争い」ではなく「正当防衛」でしょう。

「争わない」は弁護士の基本

弁護士というと、訴訟など「争うこと」を生業(なりわい)にしているというイメージがあるかもしれません。

確かに、離婚にせよ、倒産処理や遺産相続にせよ、争い事が起こって裁判になれば弁護士はより大きな報酬をもらえます。争いを避けてしまえば、もらえるのはせいぜい相談料くらいで、弁護士にとって金銭的な利益にはなりません。

このため、弁護士は依頼者が争うように仕向けていると思われるのかもしれません。

でも、意外かもしれませんが、「争わないほうがいい」というのが弁護士の基本だと私は思うのです。

なぜなら、弁護士は争いは避けたほうがいいと教わったからです。

皆さんご存じのように、判事、検事、弁護士と、法律問題を扱う職業に就くには、司法試験をパスする必要があります。司法試験に受かった人は、必ず司法研修所というところへ通って、法律家としての実地の勉強をすることになっています。テレビドラマなどで司法研修所の様子をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。

そして、この司法研修所で私は、ある教官から、紛争処理の優先順位は以下のように考えろ、と教わりました。

(1)話し合いで解決。

(2)裁判しても和解で解決。

つまり、いちばんいいのは裁判を避けることだと、私は教官から教わったのです。

よく、「いつも西中弁護士は、裁判をしてはいけないと言っている」と思われているようですが、そうではありません。裁判は依頼者にとって、実は最も不利な決着だといっているだけなのです。

裁判が不利な決着だという理由のひとつは、勝っても負けても「恨み」が残るからです。

不思議なことに、裁判で勝った後に不幸になる人が珍しくないのです。勝訴を勝ち取った後に会社が倒産したり、不渡り手形をつかまされたり、経営者が交通事故に遭ったりする例を数々見てきました。

「きっと、恨みを買ったために、運が落ちてしまったのだ」というと、非科学的だと思われるかもしれません。でもこれは、47年間の弁護士生活で、民事、刑事のさまざまな事件を経験してきた私の偽らざる実感なのです。

「争いは恨みを残し、運を落としてしまう」

皆さんの幸福を願うベテラン弁護士の心からのメッセージとして、どうか、決して忘れないでいてほしいものです。

西中 務 弁護士

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にしなか つとむ / Tsutomu Nishinaka

1942年大阪市淀川区生まれ。大阪府立北野高校、大阪大学法学部を卒業後、会社勤務を経て25歳で司法試験に合格。以来、半世紀近く弁護士として、民事、刑事のさまざまな事件を経験。依頼者はのべ1万人を超える。本書で紹介する出来事をきっかけに、弁護士でありながら「争わない生き方」の重要性を痛感。人との縁を大切に考え、毎年出す暑中見舞いと年賀状は2万枚にのぼる。現在はエートス法律事務所に所属。社会貢献活動として、法律事務所の1階をセミナールームとして無料で一般に貸しているほか、老人ホームでの傾聴ボランティアなども行っている。「いのちの電話」の相談員も10年間務めた。著書に『ベテラン弁護士の「争わない生き方」が道を拓く』(ぱる出版)がある。

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