乙武洋匡「日本には村の掟がまだ残っている」

中川淳一郎と語る競争、結婚、不倫、差別

誰かが何か失敗したら、たたいてたたいて、とにかく蹴落とす風潮がある(撮影:今井康一)
日本出版史に残る大ベストセラー『五体不満足』とともに、世の障害者観を塗り替えた乙武洋匡氏と希代のウェブ編集者・中川淳一郎氏の対談。3月1日配信の前編では、乙武氏のこれまで18年間の自己葛藤と、世間から際限なく投げつけられる批判との攻防、その中で彼が何を考え続けてきたかが語られた。
中編では、ともに40代の男としてキャリアを重ねてきた2人が、実のところ現在、いわゆる「ネット民」の主役と考えられる同世代の挫折、そしてこの社会に蔓延する息苦しさについてひもといていく。仕事に家庭にと、社会的に充実し「不惑」を迎えているはずの中年世代に、今何が起きているのか。(対談司会:河崎 環)

前編 乙武洋匡「自分をようやく理解してもらえた」

「結婚はもうしない」

河崎環(以下、河崎):昨年の乙武さんの不倫騒動で、私が最も印象的だったのは、男性たちの動揺ぶりでした。健常の男性たちが、「『乙武でさえ』あんなにモテてるのか」と。

そもそもネット論調の中心世代は、実は私たち40歳前後の世代だといわれていますよね。ロスジェネとも呼ばれた、団塊ジュニアから就職氷河期くらいまで。彼らは普通に勤め人、女性は専業主婦だったりもする。私たち世代の「論客」なんて呼ばれている人までもが、批評を隠れみのにして自分たちの鬱屈や嫉妬を、乙武さんをネタにさんざんたたきつけていたのが、本当に興味深かった。それは40代がもともとたたき込まれて育った競争の病理ゆえなのか、いま肉体的にも精神的にも曲がり角を迎えた挫折感ゆえなのか。

この世代は人生の競争に勝つためには、下手をうってはいけないし、しくじってはいけなかった。しくじったやつ、転んだやつは置いていかれたわけですよ。そして、今も誰かが何か失敗したら、それはもう蜜の味です。たたいてたたいて、とにかく蹴落とす。

だからお互いすごく失敗を恐れているわりに、本当はもういっぱいいっぱい。それこそ、イクメンだ女性活躍推進だ、でも長時間労働だブラックだという文脈の中で、「大黒柱もやりながら、イクメンもやれなんて、絶対無理だよ」と。「男として、ここまで頑張ってきて、清廉潔白で、社会的にもドヤ顔できるような肩書なりなんなりを持ちつつ、しかもまっとうに結婚もしつつ、子どもももうけつつ、奥さんも満足させつつ、家事もやりつつ。そんなすべてを俺たちが背負わされてやれるわけないじゃん」って。

中川淳一郎(以下、中川):彼らはまだ頑張ってる、走ってしまっているんだ。

河崎:そう、奥さんにすごい憎まれたりしながら、まだ頑張ってる(笑)。40代やアラフォーのこの病理について、ちょっと話したいんです。

乙武洋匡(以下、乙武):やはり価値観が1つでなければならない、同じ価値観を皆で共有して生きていかなきゃいけない、という呪縛にとらわれてしまっている気はします。いちばんわかりやすいところでいうと、やっぱり結婚というものが、そもそも共有せざるをえない価値観で。

たとえば、今の20代ぐらいの人たちに聞くと、われわれが20代だった頃と比べて、圧倒的に結婚願望が低い。それはなぜかというと、自分のライフプランと照らし合わせて、結婚がはたして最適なのかどうかという、個別化した考えをきちんと持てている。ところが、われわれの世代の多くは、そういった個別化をしてこなかった。結婚というシステムが自分にふさわしいかなんて考える間もなく、結婚というのはするものだ、と。しないと後ろ指さされるものなんだ、と刷り込まれているので、ようやく結婚してスタートラインに立てるみたいな。

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