東洋大学

異文化コミュニケーションは、新たな時代へ 東洋大学

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東洋大学は、1887年に哲学者である井上円了によって「私立哲学館」として創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする私立大学で、近年ではオリンピックでの競泳や陸上競技、そして駅伝や相撲などスポーツ分野での輝かしい実績を残している。一方、2014年には、わが国の国際化を牽引する大学を重点支援する事業、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」のグローバル化牽引型に採択され、グローバル人材育成の取り組みが加速している。「世界で存在感のある大学へ」と題したこの企画では、グローバルに活躍できる人材に求められる能力、その育成のために大学や社会がどう取り組むべきかについて、全6回の連載を通して明らかにする。第5回は、2017年4月、文学部英語コミュニケーション学科を発展改組して新設される文学部国際文化コミュニケーション学科に所属予定である倉田雅美教授が、プロテニス界のトッププレーヤーとして活躍してきた杉山愛氏と対談。世界を舞台に活躍するために必要なコミュニケーション力について語り合った。
左から元テニスプレーヤー 杉山愛氏、東洋大学 文学部 英語コミュニケーション学科教授 倉田雅美氏

杉山 世界各地の大会を転戦するプロテニスプレーヤーは1年のうち8~9カ月を海外で過ごしますが、身の回りのことは自分でしなければなりません。私の場合は、中学生の時から、ジュニア大会で海外を経験してきたこともあり、日常生活レベルの英語はできましたが、17歳でプロになった当初は、文化・価値観が日本と異なる海外で戸惑いを覚えました。日本では、当たり前のように交通機関が時間どおりに機能していますが、海外では予約した時間にタクシーが迎えに来ないといった、ちょっとした予想外の事態はしょっちゅうです。また、メディア会見でのインタビューは、かなり専門的な内容なので、相手の質問がわからなかったり、的を射た答えができなかったり、と言葉の壁を感じました。しかし、そこでストレスを感じていては、試合で良いパフォーマンスが出せません。海外でも気持ちよく過ごすには、言葉も含めて柔軟な対応能力を備え、その土地の良い面に目を向けるポジティブな心の持ち方ができる国際人になることが大切だと思いました。

元テニスプレーヤー
杉山愛
4歳からテニスを始め、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位となり17歳でプロに転向。以来、17年間にわたり世界各地のWTA(女子テニス協会)ツアーを転戦した。公式戦通算1772試合に出場し、グランドスラム(4大国際大会)女子ダブルスでの3度の優勝をはじめ、優勝回数はシングルス6回、ダブルス38回を数える。2009年の引退後は、スポーツ番組キャスターや情報番組コメンテーター、グランドスラム大会の解説などで活躍。ジュニアの女子選手をサポートするプロジェクトにも取り組んでいる

倉田 コミュニケーションの方法には、それぞれの国、文化でルールがあり、まずはそれらを理解することが大切です。しかし、最終的にコミュニケーションの質を決めるのは、国際人としての資質・能力だと思います。私の担当するゼミの学生には、リオ五輪・競泳の金メダリストの萩野公介君(文学部英語コミュニケーション学科4年)がいます。彼は「世界に自分の考えを発信したい」との思いで英語コミュニケーション学科に入学しましたが、当初から英語力は高く、水泳の国際大会で海外経験を重ねながら、さらに磨きをかけてきました。今の日本は、小学校にも英語教育が浸透し、彼のように英語力に長けた若者が増えています。英語運用能力は単に言葉の意味がわかるだけでなく、より実践的なコミュニケーションへと新たなステージに入っていると言えるでしょう。本学では、1カ月間の語学セミナーから、3~6カ月間の語学留学、1年間の交換留学といった海外留学制度を充実させ、学生が海外を経験し、コミュニケーション力をアップさせる環境を整えています。2017年4月開設の文学部国際文化コミュニケーション学科では、英語のほかにフランス語、ドイツ語、外国人留学生は日本語を学ぶことで、グローバル化時代において多言語コミュニケーション力を高めることにも注力します。

杉山 語学もとても大切ですが、コミュニケーションは多岐に渡ります。テニスのダブルスで言えば、パートナーとハイタッチをしたり、微笑みあったりすることもコミュニケーションの一つと言えます。一方で、日本人は繊細で、相手の気持ちを考えながら話をしますが、スポーツの世界はシンプルで、ストレートに物を言わなければ相手に思いが伝わりません。海外の大会では、プレーヤーが主催・運営者側に改善点を提案する会議が開かれることがありますが、些細なことまで選手たちは堂々と訴えます。海外では、自分の意見をきちんと主張する発信力が非常に重要になります。

倉田 そのとおりですね。日本人の若者には、外国人と直接、触れる機会を多く持つことで、異文化コミュニケーションがどういうものかを理解してもらいたいと考えています。文学部国際文化コミュニケーション学科では、それに伴い、イギリス、アメリカ、カナダなど、同じ英語圏でも異なる歴史・文化を背景に持つ多様な国のネイティブスピーカーの教員がいます。さらに、留学生も積極的に受け入れ、大学内で日本人学生が異文化に触れる環境を作り出すことを狙っています。

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