乙武洋匡「自分をようやく理解してもらえた」 中川淳一郎と語る「不寛容すぎる社会」の実像

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乙武:私としては、世間から「メッキが剝がれた」と批判される前に、必死になって「これはメッキですよ」とアピールしてきたつもりなのですが、結局、その言葉は誰にも届いていなかった。失った信頼は取り返しがつかないほど大きなものだという自覚はありますが、心のどこかでホッとしている自分がいるのも否めない。これで、ようやく自分が大した人間ではないことがわかっていただけた、と。

「余計なことしやがって」

中川:今のメディアとか世間というのは、乙武さんにとっていわば「外側の人」で、「内側」ともいえる存在とは、たぶん障害者の人たちだと思うんです。今、「Abema TIMES」っていうニュースサイトの編集に携わっているんですが、そこでゲイのライターに、「LGBTについて毎週書いてほしい」とお願いしたんです。二丁目の事情とか、同性カップル事情とか。そうしたら毎回記事が炎上するんですよ。炎上させる人って、全員LGBTの人。つまり身内から批判が来るんですね。あるときは、あまりのクレームに記事を落とさざるをえなかったほど。こういった、内なる人からの乙武さんへのバッシングはありましたか。

乙武:『五体不満足』が出た当初、すごく驚かされたのが、まさに障害当事者やご家族からのバッシングだったんですね。私自身としては、別に障害者のためにという強い思いであの本を書いたわけではなかったんですが。結果として、あの本が多くの人に読まれることで、障害者を取り巻く環境や、世間の障害者に対する見方っていうものが変わったらいいな、というぐらいの気持ちは持っていました。

中川:たとえば小人プロレスっていうのがありますが、あれを「差別だ!」と糾弾するのは違うんじゃないか、というのが乙武さんの考えということですよね。

乙武:まさにそうです。出版した当時はまだ甘ちゃんの22歳の若造ですから、あの本の内容で、誰かから批判を受けるなんていう想定は1ミリもしてなかった。ところが出版されてみたら、思いのほか障害当事者やご家族からバッシングが相次いで。多くあった声としては、「あなたは、たまたま恵まれていただけだ」というもの。

中川:「恵まれているだけ」っていうのは、容姿や、頭脳や、家庭環境ですか。

乙武:主に家庭環境ですね。やはり、障害を否定されず、親から肯定的に育てられたことが大きい、と。あとは、「お前が登場したことによって、『乙武さんだって、あんなに頑張ってるんだから、あなたも頑張れるはず』と、お前と同様の頑張りを強要されるようになった。どうしてくれるんだ」っていう。

中川:なんかツイッターみたいですね。

乙武:結構それは衝撃でした。さっきもお話ししたように、「彼らのために」という思いがあったわけではないものの、なんとなく障害者にプラスになったらいいなぐらいの気持ちはあったので、まさかその方々から批判されるとは、夢にも思っていなかった。本当に、真後ろからやりが飛んできたみたいな気持ちでした。でも、結局それは、18年間変わることがなかった。もちろん、同じく障害当事者やそのご家族から「勇気をもらえた」「乙武さんは障害者にとって希望の星です」というありがたいお言葉も多く頂戴しましたが、その一方で私に対する批判の急先鋒が、基本的には障害者であり続けたというのも、否定できない事実ですね。

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