年1400万円のがん免疫薬が突きつける課題 「キイトルーダ」は第2のオプジーボになるか

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こうした条件を付けずに用いた場合は、現状ではせいぜい2割程度の人にしか効かない、免疫チェックポイント阻害薬をより効率的に使うという点からは、推奨される条件といえる。一方で、生検は患者にも医師にも負担を強いることになるため、その点からキイトルーダが敬遠されたり、生検の結果で使えないと判定されると、オプジーボが代わりの選択肢になることも考えられる。河上教授は「オプジーボの市場シェアが単純にキイトルーダに置き換わるわけではない」と言う。

ともあれ、オプジーボと同等かそれ以上の薬が出てきたことは、喜ばしいことだ。さらなる朗報がある。免疫チェックポイント阻害薬には、まだ別の薬があり、続々と製剤化されている。抗PD-L1抗体(スイス・ロシュの「アテゾリズマブ」=米国で承認済み、英アストラゼネカの「デュルバルマブ」、米ファイザーおよび独メルクの「アベルマブ」)、抗CTLA-4抗体(アストラゼネカの「トレメリムマブ」)が、今か今かと、日本、そして海外における承認・発売を待っている。

各社では差別化を図るべく、がんの種類や使い方を変えるなどして、いち早い承認を目指している。免疫療法のメカニズムからいえば、どの薬も多様ながんに効く可能性はあるが、あるがんで先行して承認されれば、そのがんで市場を確保しやすいという思惑も見え隠れする。

奏効率は20%前後と一定の効果

2011年に世界で最初の免疫チェックポイント阻害薬として米国で承認された、抗CTLA-4抗体、米ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)のヤーボイ(一般名「イピリムマブ」)を含め、7つの薬の奏効率(腫瘍が縮小した人の割合)は20%前後。どれも一定の効果が認められているとはいえ、突出した特効薬はまだない。より身近な高血圧の薬を考えても、薬の効き目には差が生じる場合があるので、がんに立ち向かう“弾”が増えたことは歓迎してよい。

しかし、現状のがん免疫薬は、過渡期の治療法でもある。オプジーボやキイトルーダは、適用がいずれも「切除不能」ながんが対象であり、「薬だけで、全てのがんを治せるほどの薬か?」と言われれば、残念ながら今のところはそうではない。

がん免疫療法には半世紀の歴史がある。簡単に振り返っておきたい。

1970年、免疫学者でノーベル賞受賞者でもあるオーストラリアのフランク・バーネット氏は、「ヒトの体内では毎日がんが発生しているが、免疫細胞がパトロールして監視しており、がんの発症を防いでいる」と提唱。この「がん免疫監視機構」に鼓舞されて、さまざまながん免疫治療の試みがなされたものの、免疫細胞への指令機能を高める樹状細胞療法も、免疫力を強化するペプチドワクチンも、十分な効果を出せなかった。日本では、サルノコシカケや溶連菌の抽出物も、免疫力を増強する抗がん剤として承認されたのである。

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