国土交通省

羽田空港機能強化への視点

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現在、国土交通省において、飛行経路を見直し、2020年までに羽田空港の国際線を増便する取り組みが進められているが、住民からは都心に新たに飛行経路を設定することについての安全性を懸念する声も上がっている。そこで、JALのパイロットとして世界中の空を飛び、現在は航空評論家として活動している小林宏之氏に、安全性を確保するための航空運航の仕組みや航空会社の取り組みなどについて聞いた。

安全性を確保するための多彩な仕組みと取り組み

まず、羽田空港における飛行経路の見直しについておさらいをしてみたい。現在は、東京湾上空を最大限活用している飛行経路について、国際線の需要が集中する時間帯に限って、都心上空も活用する新しい飛行経路を使うという見直し案だ。「新たな飛行経路によって、1時間あたりの発着回数を現在の80回から90回に増やすことができます。年間では約3万9000回の増加が可能なのです」と小林宏之氏が説明する。

航空の安全性を支える4つの要素

機能強化による経済効果などが注目される一方で、小林氏は「安全性を確保する取り組みについてもっと情報を発信していかなければいけません」と続ける。

小林宏之
航空評論家
1968年日本航空入社。42年間にわたり、一度も病欠などでスケジュールの変更なく飛び続ける。総飛行時間18500時間。退社後は、危機管理・リスクマネジメントの講師としても活躍中。近著に『航空安全とパイロットの危機管理』

「安全に絶対という言葉は使えません。しかし、リスクを減らしていくために関係者が一丸となって取り組みを続けているのが世界の航空業界なのです。航空機はどこか一つの系統にトラブルが生じたとしても、それを、二重、三重にカバーするような設計思想によってつくられています。日本の航空会社は実にきめ細かな対応をしていますし、外国の航空会社に対しても、国際基準を満たしていない場合には、日本への乗り入れを国が認めることはありません」

航空機には通常二人のパイロットが搭乗し、一人が機内食で肉を選べば、もう一人は魚といったように、二人は決して同じ料理を食べないなど、安全性の追求は細部まで徹底している。小林氏によれば、航空機の安全性を支えるのは、1機体や設備などのハードウェア、2国際基準やパイロットの訓練などのソフトウェア、3情報の共有・活用を意味するソーシャルリソース、4ヒューマンリソース、という四つの要素とのこと。しかも、それぞれの要素における安全対策は進化を遂げているという。

「たとえばハードウェアにおいては、航空機の心臓とも言えるエンジンの信頼性が向上し、特に双発機の場合、飛行距離が格段に伸びました。これは、天候などによって目的地を変更する際なども選択肢が増えることを意味しています。また、着陸時には、管制からのレーダーによって進入コースを誘導しているほか、GPSの位置情報も受信しており、パイロットは航空機の位置を正確に把握することができます。複数のナビゲーションによってパイロットの離着陸時の負担も減り、決められた経路を正確に飛行することができるのです。さらに、地上からリアルタイムで飛行状態をモニターすることによって、パイロットと地上のスタッフが機体の情報などを共有しています。これにより、着陸後に迅速かつ適切な整備をすることができるようになっています」

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