人気工具「ネジザウルス」はアメリカを目指す 累計300万本売れたヒット工具の野望

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「ネジザウルスGT」を手にする高崎社長(筆者撮影)

ただ、専門商社の担当者からは「今度の新商品には心底感心したわ」といった言葉ももらい、手応えはありました。そこでまず価格を下げ、先端の形状をよりしっかりネジ頭をつかめるよう改良しました。しかし、それですぐに売り上げが伸びるほど世間は甘くはありません。

次に高崎社長が打った手は、思い切って「小ネジプライヤー」をホームセンターや金物店で販売することでした。やはりエンドユーザーに直接見てもらい認識してもらうのがいちばん、と考えたのです。しかし、従来の地味なパッケージとデザインでは、店頭に並べても他の商品の中に埋没してしまいます。

すると、よい機会だからパッケージデザインだけでなく商品名も変えよう、という声が社内から上がりました。これこそ、高崎社長が入社以来ひそかに望んでいたことでした。新商品のネーミングを皆で考えることで、社内の結束が強まり、従業員一人ひとりが当事者意識をもって仕事に取り組めるのではないか。「小ネジプライヤー」をヒット商品に生まれ変わらせる挑戦が、社内の意識改革につながると思ったのです。

ネジザウルスキャラクター「ウルスくん」(エンジニア提供)

そうして社内公募で集まった案の中で、圧倒的な存在感を感じさせたのが「ネジザウルス」でした。ネジ頭をつかむ先端部分をティラノサウルスの頭部に見立てたアイデアです。工具に恐竜の目を入れ、パッケージにも恐竜のイラストをあしらって店頭に置いたところ、発売と同時に驚くほどの勢いで売れ始めました。

初月の発売は約4500本で、「小ネジプライヤー」が初月15本だったことを思うと、300倍の売り上げです。結局、その年1年の売り上げは7万本に達しました。以前とは2ケタ違う大幅進展で、社員たちの意気も大いに上がったといいます。MPDPでいうデザイン力(D)の勝利でした。

「ご愛用者カード」を熟読

しかし、よいことばかりは続きません。2008年のリーマンショックで、大きな被害を受けます。原材料の高騰に加え、ネジザウルスの市場が飽和状態に近づいていました。ほとんどの営業先からは「ネジザウルスはもういらない」という声が聞こえてきます。

とはいえ、業績を回復するには売り上げを伸ばすしかありません。高崎社長は悩みに悩んだ末、ネジザウルスの新バージョンの開発を決意します。この時期、新商品への投資は無謀とも思われました。それでもどうにか意志を貫いたのは、実際にネジザウルスを使っておられるお客様からの「ご愛用者カード」に励まされたからでした。およそ1000通の愛用者の声を精読することで、新商品開発のヒントを得ようとしたのです。

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