同性愛カップルが隠れトランプになった事情 行き過ぎた平等の追求が米国を分断した

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マイケルさんが、自分の中に生まれる性の違和感を認識したのは10歳を過ぎてからのことである。「それまでは、僕は単なる子どもだった。子どもは子どもでいられるうちに、ただ愛の中に身を置き、自由でいるべきなんだ。何かを無理に教えるだけが教育ではない。僕は自分の娘に子どもでいられる時間を大事にしてほしいんだ」と彼は言う。

敬虔なクリスチャンだった彼の両親は、「それがたとえ神の教えに反すると世間に言われても、私たちは君を守るよ。世間から向けられる偏見が私たち家族に神が与えてくれた課題であるのなら、私たち家族は共にそれを乗り越えよう」と言い、つねに彼を支え続けてくれたそうだ。両親の深い愛がなければ、自分は弁護士となって成功することはできなかったと彼は話す。

「差別や偏見を受け入れ前に進まなくてはいけない」

一方、ジョンさんには2つ年上の兄がいたが、彼もまた同性愛者だった。しかしアルコール依存症で、麻薬にも手を出してしまったシングルマザーのもとで育った彼らは、貧困や世間からの偏見に苦しみ抜いた。「兄はとても優しい人だったが、耐えきれずに亡くなったんだ」と語ったジョンさんの瞳には涙が光っていた。

2人は話す。「同性愛者は確かに偏見と闘い、傷ついていることが多い。けれど、人は生きていれば何らかの挑戦を与えられるものだ。これは僕らの挑戦でもある。同性愛者の本当の平等というのは、傷や痛みをなくすことではなく、違いや偏見を受け入れながら前に進めるのだということを僕ら自身が示していかねば達成できないと思う。子どもを本当の意味で守ることを優先しようと選択するなら、僕らはこれ以上リベラルと保守のバランスが狂ってはいけないと思っている」。

人が自由と平等の中で、公平に暮らすという社会の理想を追求していくことはすばらしい。そして「守るべきもの」を得た者や、社会の中に次世代に継承すべき何かを残そうとする人たちが、保守的傾向を大切にすることもすばらしいと思う。

リベラルか保守か、赤か青か。どうしてこの国は分断しなければならないのだろう。なぜ中間的視点に立って、社会が抱える共通の課題に共に取り組めないのか――。絶対数は少ないかもしれないけれど、私たちが社会への疑問提起をやめてしまっては、米国の本来誇るべき点でもある「多様性」も失われてしまう――。マイケルさん、ジョンさんが涙ながらに語った言葉の重みに、私の心も震えた。

ジュンコ・グッドイヤー Agentic LLC代表、Generativity Lab代表

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Junko Goodyear

アメリカ在住。青山学院大学卒業。日本にて約20年の企業経営のち、現職。日本企業のアメリカ進出、アメリカ企業の日本進出のコンサルテーション&サポートほかを行っている。シアトル近郊最大の子供劇団のひとつ『Kitsap Children’s Musical Theatre』顧問を務めながら、次世代継承と・社会還元共有型マーケティングを考える『ジェネラティビティ・ラボ』も主宰している。

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