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ブロックチェーンが変える貿易業務の未来 東京海上日動が保険証券をブロックチェーンで共有する実証実験を開始

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大手損害保険会社の東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)は、NTTデータと共同でブロックチェーン技術を使って外航貨物海上保険における保険証券を共有する実証実験を始めている。書類のやり取りに割く時間が大幅に短縮されるとともに、さまざまなコストの削減も期待できるという。実験の狙いや進捗について、東京海上日動に取材した。

貿易取引は依然として
紙の書類のやりとりが中心

東京海上日動火災保険
海上業務部
貨物業務グループ
新谷 哲之介

「輸出入貨物にかかわる外航貨物海上保険では『保険証券』という書類を保険会社が発行し、貨物の売り手(輸出業者)から銀行などを介して買い手(輸入業者)に譲渡されます。現在はその流通はほとんど紙の書類によって行われており、やりとりに時間がかかるのが課題でした」と、東京海上日動火災保険 海上業務部 貨物業務グループの新谷哲之介氏は話す。たとえば、日本から中国の上海に船で貨物を送る場合、貨物は2、3日で届く一方で、貨物の買い手のもとに書類が届くまでに1週間ほどかかることも珍しくないという。輸入業者には貨物をすぐに受け取ることができないという時間的なロスがあり、港によっては追加の保管費用が発生する場合もあった。「このほか、貿易取引では、信用状(L/C)、船荷証券(B/L)、インボイス(送り状)など、さまざまな書類が用いられます。これらの電子化は、貿易関連業界共通の課題でした」。

これまで取り組みが行われなかったわけではない。電子データ交換(EDI)などの導入も検討されてきた。「ただし、貿易取引では、輸出入業者に加え、運輸会社・通関業者、銀行、保険会社、各国の税関や輸出入監督官庁など、さまざまな取引関係者が存在します。EDIに必要なITインフラの構築などについて全世界ベースで足並みをそろえるのは容易ではなく、なかなか実現しませんでした。このため、一時はデータの共有に関する議論も下火になっていましたが、最近になって、それを大きく変える可能性のある技術が登場しました。『ブロックチェーン』です」。

「ブロックチェーン」は、「FinTech(フィンテック)の中でも最も注目される技術の1つである。別名、分散型台帳技術と呼ばれ、中央集権的なサーバを持つことなく耐改ざん性や耐障害性を兼ね備え、複数の取引関係者間で情報を共有できるのが大きな特長だ。「ブロックチェーン」は仮想通貨「ビットコイン」と同じものと認識されることがあるが、「ブロックチェーン」自体は分散型台帳を実現する汎用的な技術であり、ビットコインはそれを電子通貨に応用したシステムの一形態に過ぎない。

保険証券へのブロックチェーン技術適用に向けた
実証実験を開始

「当社では『ブロックチェーン』が登場したころから、取引関係者間のデータの共有に活用できるのではないかと検討していました。といっても、当社単独で技術開発を行うことはできません。知見のあるパートナーを探していたところ、NTTデータと出会うことができました」と新谷氏は振り返る。NTTデータは、大手ITベンダーや決済機関、金融インフラ系のメンバーが結集した「Hyperledger Project」コンソーシアムに創設メンバーとして参画し、国内初の貿易業務(信用状)のブロックチェーン実証実験を手がけるなど、ブロックチェーンの普及をリードする存在だ。「2016年12月から2017年3月の予定で、NTTデータとともに、保険証券へのブロックチェーン技術適用に向けた実証実験も開始しました」。

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