ゆうちょvs.地銀 住宅ローン巡り火花散る秋の陣

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ゆうちょvs.地銀 住宅ローン巡り火花散る秋の陣

10月に民営化したゆうちょ銀行。早ければ3年後の上場に向け、新規業務を展開して収益力を向上させたいところ。一方、迎え撃つ立場の地銀の反発が強まっている。(『週刊東洋経済』10月13日号より)

10月1日に民営化したゆうちょ銀行の新規業務をめぐり、地方銀行とゆうちょ銀の攻防が激しさを増している。

ゆうちょ銀を擁する持ち株会社「日本郵政」は9月末、個人向けローンに関する業務提携に向け、スルガ銀行と協議を進めることで合意した。まずは全国の郵便局ネットワークを通じてスルガ銀の住宅ローンを販売し、将来はスルガ銀の協力を得てゆうちょ銀の自社商品を開発し、販売につなげていく狙いだ。

9月に開かれた民営化直前の記者会見で、旧日本郵政公社の西川善文総裁(当時)は「独身者や自営業者ら、(ローンの対象から)銀行が外している顧客のニーズに応えていきたい」と述べ、住宅ローンの取り組みに強い意欲を示した。ゆうちょ銀行はローン商品販売の経験がなく、当初は233カ所の直営店などで開始し、「ある程度経験を積んでやれると見極めをつけて」(西川社長)、全国ネットワークへ広げていく。

スルガ銀の住宅ローン残高は2007年3月末で1.4兆円超と地銀4位。本店は静岡だが、首都圏と神奈川県で残高の6割を超えるというユニークなポートフォリオを持つ。その対象は派遣や契約社員の女性、外国人、オーナー経営者ら。西川社長が考えるターゲット層とまさに合致する。こうしたローンを手掛けるのは地銀の中でもスルガ銀くらいで「(ゆうちょ銀との提携は)スルガ銀ありきの出来レースではないか」との声が他の地銀から出るほどだ。

高まる地銀の反発

ゆうちょ銀とスルガ銀との提携に他の地銀は冷ややかだ。全国地方銀行協会の小川是会長(横浜銀行頭取)は「国営から国有に変わったが、国有の間は新規業務の本格的な取り組みを避けていただきたい」と不快感を隠さない。

西川社長によると、住宅ローンの提携は地銀約10行へ提案した。9月中旬、横浜銀や千葉銀行など、07年3月末で住宅ローン残高が1兆~2兆円の地銀上位行に声がかかった。だが、スルガ銀以外の地銀は「ゆうちょ銀と組むメリットがない」で一致する。

今回の提携は、地銀の住宅ローンを代理店である郵便局を通じて販売するため、いくつかの条件を検討する必要があるからだ。ある地銀は、1)金融当局の検査が入るリスク2)3年以上の実務経験が必要な販売担当者の確保3)ローン実行後の債権管理のための全国規模の拠点整備、この3点を検討したが、結局は提携の見送りを決めたという。

郵便局に問題があれば、販売を委ねた地銀側の責任も問われる。地銀にしてみれば、ゆうちょ銀行が金融庁検査に耐えうる販売代理体制を築けるのかという不安がある。ゆうちょ銀行の全国ネットワークに経験者を派遣できるほど人員に余裕もない。さらに、拠点が一定地域に限られている地銀に、全国規模での債権管理体制を構築するのは到底無理というわけだ。

現在、住宅ローンの大半は、銀行店舗の窓口経由でなく、「業者ルート」と呼ばれる住宅・マンション販売会社を通じて販売されている。このため、「郵便局の窓口というチャネルができても、投信や保険と違って売れないのでは」と疑問視する声もある。ゆうちょ銀と規模拡大を警戒する地銀の攻防は始まったばかりだ。9月21日には全国47都道府県の連名で、旧郵政公社に対し、水道料金などの公金収納手数料の引き下げ要求が出された。東京都の場合、公金の収納業務で自治体側が銀行に払う手数料は2円。これに対し、郵便局には平均65円の手数料を支払っているという。これを地銀関係者は「民間銀行とのイコールフッティングの一環」と言い切り、ゆうちょ銀行の肥大化を牽制する。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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