小林製薬はなぜ「4年内製品」にこだわるのか ニッチでユニークな製品はこうして生まれる

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このオーディションを勝ち抜いたのが、2014年秋に発売したせき・たんの薬「ダスモック」だ。清肺湯という漢方処方で、たばこや排ガスによるせき・たん、気管支炎を改善する。2の矢として、11月19日の「世界COPD(慢性閉塞性肺疾患)デー」に着目したキャンペーンを展開。さらに約半年後、24包の増量タイプを発売。これらがいずれも当たり、ヒットを確信する。

初めて社内選抜を勝ち抜いた「ダスモック」。今では育成期間を無事”卒業”した(記者撮影)

育成品となってからも、黄砂やPM2.5の飛散といった話題をとらえて放ち続けた矢は6本に上る。最近では中国人旅行客の間でも口コミで人気となり、売り上げ10億円規模に育った。

ニッチな製品を身上とする同社では、最大の「ブルーレット」シリーズでも150億円規模だ。花王の洗剤「アタック」やスキンケア「ビオレ」シリーズが900億円を超えることから、そのニッチ具合がわかるだろう。やはり売上高で5本の指に入る洗眼薬「アイボン」や歯磨き「生葉」シリーズは40億~50億円規模。ダスモックはAクラス入りを果たし、育成期間を無事“卒業”した。

ちなみに現在育成中なのは自動車用「クルマの消臭元」やヘアウィッグ「ヘアラ」など。導入重点品には、アルコールなどによる頭痛の薬「アルピタン」、乾燥肌治療薬「さいき」、就寝時に鼻呼吸を促す「ナイトミン鼻呼吸テープ」(今春発売)などが控える。

4年内製品比率20%を維持すれば成長できる

一度市場に定着した製品は5年、10年と利益貢献してくれる。その間に成功確度の高い製品を作り込む余裕も生まれるだろう。一時は15%強しかなかった小林製薬の4年内製品比率は、2016年12月期で22.8%に上昇した。

「20%程度を維持すれば、経営的にも成長を維持できる」(小林社長)。製品数でいうと約800SKUのうち60程度がこれに当たる(SKUは最小管理単位)。2019年を最終年度とする中期経営計画では売上高1650億円(対2016年比14%増)、営業利益230億円(同24%増)を掲げており、今度は半期に2品目以上の定着商品を出すのが目標だ。

新規事業は初年度こそ社内外で話題となるが、だんだん予算も注目も減っていく。そして3年目に継続するか否かのジャッジが下される――というのが今の相場だろうか。小林製薬が3年目でなく4年目を重視するのは「特に意味はなく、体験的にできてきた期間」(同社)というが、「プラス1年」の余裕が新ビジネス育成のカギになっているのかもしれない。
 

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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