中央大学

「法を学んで論理的思考力を手に入れよう」

法学こそが、大人の学問

「法科の中央」の理念と教育内容は、社会人学生も多く在籍する法学部通信教育課程にも貫かれていた。社会人学生は、時間の制約といったさまざまな壁を乗り越えて、なぜ法律を学ぶのか。中央大学法学部通信教育課程でどんな世界が見えたのか。中央大学法科大学院の野村修也教授を囲み、通信教育課程の卒業生3名と在学生1名が語り合った。

野村 中央大学は1885年(明治18年)、英吉利(イギリス)法律学校として創設されました。当時の政府は、不平等条約を解消するには、法典を編纂して近代国家として認められることが急務だと考えていました。そのため、フランス法やドイツ法をまねすることで、手っ取り早く法典をつくろうとしたわけです。しかし、法律は本来、自分たちの暮らしの中から必要に応じて生まれてくるもの。英吉利法律学校は、そうした考えを重視するイギリス法の精神に則り、拙速な法典編纂に反旗を翻しました。以来、中央大学は、実社会の中で法律を見つけ出していく人材を育てることを大切にしてきたのです。ですから今日の皆さんのように、法律を学んで実社会で活躍していく人を輩出していくことこそ建学の精神であり、実学の考え方やスキルを提供していくのが中央大学法学部の使命なのです。そうした基本的な考え方は通信教育課程も何ら変わるところはありません。

高橋祥
商社法務部勤務(2013年LL.M.取得)
2010年通信教育課程卒業
神宮智恵
行政書士事務所代表
2016年通信教育課程卒業

高橋 私は大学の教養学部で学び、卒業後に商社に就職しました。企業法務に関心を持ち、教養学部にいた頃から法律の勉強をするようになりましたが、やはり自学自習には限界があると感じ、入社すると同時に通信教育課程の3年次に編入学しました。

神宮 私は就職してから独学で行政書士の資格を取りました。でも、子育てが一段落してから行政書士としての登録をしたので、かなりブランクがありましたし、その間に法律もいろいろ変わった部分がありました。それで通信教育課程で法律を学ぶことにしました。

高村健一
税理士事務所代表 現在在学中
2011年通信教育課程入学
伊藤由里
特許事務所勤務 弁理士
2016年通信教育課程卒業

高村 私は今、通信教育課程で学んでいる最中です。税理士事務所を開き、中小企業の顧問などもしているので、どうしても法律の体系的な知識が必要だと考えたのが入学のきっかけです。法学部といえば「法科の中央」だろうと、本学を選びました。

伊藤 「法科の中央」という発想で選んだのは、私も同じです。もともと特許事務所で働いていたのですが、何か資格を取ろうと考え弁理士の資格を取りました。その後もっと法律を勉強するため通信教育課程で学ぼうと思い、それなら中央大学がいいと周りの人から勧められました。今は民法などの知識を生かしながら、商標を中心に仕事をしています。

レポート学習は真剣勝負

野村 中央大学の場合、通学課程も通信教育課程も分け隔てをしていません。通信教育課程だからやさしいことを教えるようなことはありませんし、ハードルも下げていません。ですから通信教育課程の卒業生で司法試験に合格する人もいますし、社会からも通学課程と同様に中央大学法学部卒業と認められているのです。

神宮 ハードルの高さは実感しています。2年で卒業するつもりだったのに5年もかかってしまいましたから(笑)。でもどうせ勉強するのなら、知識やスキルをしっかり身に付けたほうがいいですよね。だから私は何年かかっても、何十年かかっても必ず卒業しようと決めていたんです。それに中央大学は事務職員の方々も学生を何とか卒業に導こうといろいろサポートしてくれますからね。

高村 通信教育課程でもスクーリングで学部や大学院の先生の指導を直接受けられる機会があり、たいへん中身の濃い講義だったと印象に残っています。でも私もレポートには苦労しています。仕事柄、雑誌などに原稿を書くこともあるので文章を書くことには慣れているつもりだったのですが、レポートを期日までに提出できなかったことが何度かあり、今でも苦労しています。

伊藤 このIT時代に、レポートはいまだに手書きですから……。最初は何で?と思いましたが、実際に書いてみるとわかります。手書きだと、しっかり頭に残るんですね。

野村 パソコンなどで書いた文章は、見え方がきれいなために、論理的に破綻していても何となく読めてしまいます。でも手書きだと、論理の流れがしっかりしていなければ、読み進めることができません。なぜレポート指導が厳しいのかというと、法律を生かすためには文章を通じて論理的に主張することが何より大切だからです。論理的な思考力がないと、紛争などに割って入ることもできませんし、新しいルールをつくることもできません。可能な限り起こり得る事象をシミュレーションして論理的に整ったルールをつくらないと、かえって紛争を惹起することさえあります。そういう社会での役割を果たせる人材になるためには、論理的な思考能力が欠かせません。安易にレポートを通すわけにはいかないのです。私たち教員も真剣勝負をしているのです。

法学は大人の学問

高橋 仕事柄、海外案件を扱うことが多くあります。中央大学で学んだのは主に日本の法律ですが、国を問わず法律を学ぶ人間にとって必要な論理的思考力を身に付けることができ、実務でもアフリカなど未知の法域の把握や弁護士との折衝に生かせていると実感しています。またゼロベースで社内規程の策定に携わることがありますが、誰もが理解・納得できる論理的かつ合理的なものをつくろうというマインドを持って取り組んでいます。そういう姿勢も、中央大学で学びました。

神宮 法律を学ぶ前は、物事を感情的に考えていたこともよくあったと思います。でも、法律を学ぶと一歩引いて、どうしてこれが問題なのかと論理的に考えられるようになった気がします。私の仕事は法律の条文をしっかり覚えて使うものではありませんが、お客様にも論理的に説明できるようになったと実感しています。

高村 顧問の仕事をしていると、クライアントから実にさまざまな分野のことを質問されることがよくあります。そういうときは一瞬で答えを出すことが大事です。帰って調べてみますと言ったら、信頼されませんから。もちろん私も法律のすべてを把握しているわけではありません。ただ、原理原則がわかっている意味は大きいですね。まず法律の基本原理で整理して回答し、細かい枝葉の部分は後で調べるようにしています。法律を深く学ぶと、そういう力が養われるような気がします。

野村 法学は大人の学問といわれます。社会的経験値が高いからこそわかる部分や役に立つ部分があるからです。通信教育は法律を学ぶ環境として優れています。多様な年齢層、多様な経験値を持つ人が集まるからです。スクーリングなどの機会に学生同士が話をしても、相互の教育効果がとても高いんですね。

スクーリングの魅力とは

伊藤 入学したとき、張り切って1年目の計画を立てました。でも1カ月で計画に追いつかなくなってしまいました(笑)。レポートを1本書くのにどれくらいの時間がかかるのかとか、やってみないとわからないことも多いので、まずは様子見のような感じで自分のペースを探るのもいいかもしれません。スタートは少しゆっくりめでも、ペースがわかったらスクーリングをいつ受講するかとか、いつまでにどの科目のレポートを書くかとか、実現可能な計画を立てられるようになります。それと一度、早いうちにスクーリングに出席したほうがいいですね。仲間の存在は励みになりますし、自分が苦しんでいるときに話を聞いてくれる人がいるととてもありがたいですから。

高橋 仙台や大阪、静岡などのスクーリングにも行きました。週末の小旅行のような感じでしたね。それが割とリフレッシュになるんです。普段の勉強では、集中力には限界があるので、民法を2時間勉強したら次は商法というように、科目を変えることで気分転換を図ったりもしました。

神宮 私は、短期のスクーリングを基本に学習を進めました。3日間くらいなら、なんとか頑張れますから(笑)。そうしたら3年目くらいからとても苦労していたレポートが1回で合格できるようになり、やっとゴールが見えるようになってきて、そこからまた一段モチベーションが上がりましたね。

高橋 自分の親より年配の方がスクーリングの最前列で熱心にノートを取っていたりする。通学課程の大学生だった頃の自分が恥ずかしくなるくらい、熱心な方が多い。僕は通学課程で学んでいたときより、今の通信教育課程のほうが思い入れが強い。どこの大学を出たかと聞かれれば、中央大学ですと答えます(笑)。

神宮 卒業してからも、何か新しい勉強をしたいという気持ちがつねにあります。たぶん、勉強癖がついたのでしょうね。

伊藤 私もそう。実は最近、スペイン語の勉強を始めました。

日本の国力を支える法学教育

野村 通信教育課程には、卒業生の同窓会組織があります。昨年、私も呼ばれ、フィンテック(FinTech)について話をしたのですが、皆さん興味津々の様子で熱心に聞いてくださいました。何かを得て帰ろうという強い学習意欲を継続しているんですね。厳しい通信教育課程を卒業する人は学びの意欲が全然違います。そういう違いが、5年10年経ったときに大きな差になるのですよ。

高村 今の時代、どんな仕事をするにしても論理的思考力は必要だと思います。法学部を卒業した人がみんな法律の世界で仕事をするわけではありませんが、法学を通じて論理的思考力を身に付けることは、とても意義のあることだと思います。

野村 アメリカでは、専門的な法律を学ぶのは基本的にロースクールです。でも、ロースクールで教えるのはテクニック的な要素が多い。日本は、法律家にならない人にも法学を教えるというチャレンジをしてきた国です。法学と教養が一体化されたものとして日本独特の法学教育を構築してきたのです。必ずしも職業と法学教育がリンクしていないわけですが、日本の社会の安定性は、かなりの人たちが法学教育を受けているところにもあると考えられます。だからどんな分野で活躍される人であってもぜひ、法学を学んでほしい。また皆さんのように法学を学んだ人は、それをさらに深めていくために教養的なものにも目を向けてほしい。そうすることで、本当の正義とは何か、なぜ人は争うのか、あるいは権力とは何か、そういうことを深く考える力が身に付いていく。社会はますます複雑化してきていますので、これからはなお一層そういう力が求められるに違いありません。

野村修也
中央大学法科大学院教授
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