逆に危機を招きかねない産油国のドルペッグ制

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ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

ポールソン米財務長官が中東諸国を歴訪し、為替相場のドルペッグ制の維持を訴える一方で、ブッシュ政権が通貨が下落したアジア諸国に対してあまり急激に対ドル相場を切り上げないように脅しをかけているのは、意味のあることなのだろうか。

こうした政策の一貫性の欠如は、経済的な論理ではなく米国の抱える経済的、財政的な脆弱性に起因する。米国は、ポールソン財務長官が主張するようにドルペッグ制を促進するのではなく、オイルマネーとドルの関係を断ち切るために行われているIMF(国際通貨基金)の舞台裏での交渉を支持すべきである。

おそらくブッシュ政権は、産油国がドル本位制を放棄したら現在のドル安がドル暴落につながるのではないかと懸念しているのだろう。だが、米国は貿易赤字の拡大に歯止めをかけることにもっと心砕くべきである。貿易赤字こそが、最近のサブプライムローン危機の根底にある問題だからである。消費者の痛みを遅らせるための超金融緩和政策と財政拡張政策は、遠くない将来に起こると予想される危機を、より深刻なものにするだけである。次期大統領が2009年に就任した直後に、こうした政策が思いがけない危機をもたらすことになるだろう。

もちろん産油国の為替相場を切り上げたとしても、一朝一夕に米国の貿易収支が好転するわけではない。しかし、産油国が世界の貿易収支のかなりの部分を占めている以上、ドル相場の下落が短期的に米国の輸出を増加させる役割を果たすことは間違いない。

もっと重要なことは、米国の通貨政策は世界各国に対して一貫性を持たなければならないということだ。米財務省は人民元切り上げのペースが遅いとして中国を“通貨操作国”に指定しようと策動している。その一方で、ドルペッグ制をとっている産油国には維持を訴えている。こうした政策に一貫性があるといえるのだろうか。

米国が産油国にドルペッグ制の維持を哀願する理由はほかにもある。米国政府は、石油のドル建て価格の引き下げを求めながら、同時にドル安を促すことはできないと思っている。しかし実際には、この二つの事柄に相互関係はほとんどない。石油価格は需要と供給に従って市場で決定され、石油取引の決済通貨によって決まるわけではない。もしドルではなくユーロが基準通貨であったとしても、石油のドル建て価格が現在と違った動きをするかどうかはわからない。

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