追加緩和の選択肢なき日銀を取り巻くリスク 米国のQEの縮小と、中国バブル潰しの帰趨に注目

拡大
縮小

日銀は7月の金融政策決定会合で、景気の現状認識を一段階引き上げた。2014年、2015年のGDP(国内総生産)とCPI(消費者物価)上昇率の予測は、おおよそ、4月時点と変わらなかった。やや下方修正した委員もいたが、日銀幹部はそれを「誤差の範囲」と見なしている。

今回の景気回復への流れは、従来型の典型的な「輸出増→生産増→企業収益増→家計所得増」というパターンとは異なり、家計のマインドの好転が先行しているのが特徴である。しかし、いつまでも「気分」だけで経済を引っ張ることはできない。それゆえ企業部門の回復と所得増による消費の持続を実現させなければならないと日銀政策委員会は考えている。

中国経済に関して日銀は、近い時期にハードランディングが顕在化するとは見ていない。しかし、中国の現政権は、目先の成長よりも構造調整を進めようとしている。他のエマージング経済も、FRBの資産購入策減額観測に伴う資金流出や資源価格下落などによって元気がない。欧州経済にも元気を期待することは難しい。頼みの綱は米国経済であり、となると、円安ではあっても、日本の輸出数量の伸びは全体としては限られそうである。

市場にショックを与えずに、QE縮小が進められるのか

しかしながら、日銀は先行きの景気改善とインフレ率上昇のシナリオを当面維持する予定でいるようだ。海外経済が失速しない限りは、10月に発表される次の中期経済予想(展望レポート)でも、2015年度にインフレ率はおおよそ2%に達するとの予想を繰り返すと思われる。その大きな理由のひとつに、弊害が少ない追加緩和策の選択肢が、もはやほとんど残っていないという現実がある。

日銀が”願望”通りに追加緩和策を避け続けられるか否かは、バーナンキFRB議長が市場にさらなるショックを与えないようにいわゆる”QE3”(月850億ドルの証券購入策)の縮小を進めていけるかどうかにかかっている。

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