ソフトバンク、「純利益2倍」に死角はないか 決算会見で孫社長は終始上機嫌だったが・・・

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今回、孫社長は会見の冒頭で「米国の政治がらみの質問はなるべく聞かないでいただきたい。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下SVF。通称「10兆円ファンド」)についても、投資実行時期が近づき、サイレント期間に入ったのでルール上答えられない」と前置きし、質疑応答に移っても詳細を語ることはなかった。

孫社長といえば、米国大統領選挙の結果が判明してまもなく、トランプ大統領に最初に面会した日本人経営者として注目された。だが、トランプ大統領が中東・アフリカ7カ国からの入国禁止と難民の受け入れを制限する大統領令を発令したことで、「トランプ大統領寄り」と見られるのはリスクではないかとの見方も広がっている。

こうした見方に対し、孫社長は「オバマ前大統領、イギリスのメイ首相、インドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領にも最近会っている。SVFで投資をするためには、各国の規制や法律がかかわってくる。各国首脳とコミュニケーションを図らなければならず、あいさつに行くのは当然だ。米国ではシンギュラリティ(人工知能が人間を上回るタイミング)のチャンスが真っ先にやってくる」などと語り、意に介さない様子だった。

トランプ大統領は規制緩和を公約としていることから、「2013年に果たせなかった、米携帯3位TモバイルUSの買収(そしてスプリントとの合併)に再挑戦するのか」との質問もあった。孫社長は「規制緩和で選択肢は広がる。スプリントはグループの成長エンジンになり(買収せずに)単独でやっていく選択肢もある。規制緩和でいろいろな会社がいろいろな検討をするだろう。心を開いて交渉に入っていきたい」と直接は言及しなかったものの、柔軟な姿勢を示した。

国内への投資に興味はあるのか?

一方で、「半導体設計会社のARMを買収した余勢を駆って、東芝のNANDフラッシュメモリを買収してはどうか」という東洋経済の質問には「個別の投資案件については答えられない」と素っ気ない回答だった。

別の記者から「ソフトバンクは日本で生まれた会社なのだから、国内でも1兆円単位の投資をし、雇用を創出してはどうか。東芝の多層型NANDフラッシュメモリは日本の優れた技術だ」とたたみかけられると「当然、日本でも投資をしていく。優れた技術があれば目を向けたい」と語った。

最後に「孫社長は50代で事業を完成させ、60代で引退すると公言してきた。今年60歳になるが、事業の完成はまだ先か」と水を向けられると、孫社長は「SVF設立でソフトバンクが今後10年、30年、300年と成長するための構えができた。次の10年は後継者を見出したい」と答え、19歳の時に自ら立てた「60代で引退する」との目標をギリギリの69歳で実現することに含みを残した。

終始上機嫌で質問に答えた孫社長だが、国内の通信事業では格安スマホとの競争がますます激化している。米スプリントもコスト削減頼みで、改善が続くかは未知数だ。今後も孫社長の上機嫌が続くかは予断を許さない。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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