街づくりは「武蔵小杉化」だけが正解ではない 「スペック」で測れない街の魅力があるはずだ

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高層タワーマンションが立ち並ぶ、武蔵小杉(神奈川県・川崎市)。今、若い世代に人気の街の1つだ(写真:Tony / PIXTA)
「住みたい街」として、近年急激に人気を集めているのが、武蔵小杉だ。駅前には近代的なタワーマンションが立ち並び、大型ショッピングモールは家族連れの客でにぎわう。東横線、目黒線が乗り入れ、JRの駅も開業するなど、交通の利便性も高い。不動産情報サイトのSUUMOが毎年発表する住みたい街ランキングでは、2015年に大きく順位を上げて5位に入り、2016年には4位と、人気は高まり続けている。
武蔵小杉のような「スペックの高い街」は、再開発によって日本各地に造られている。が、こうした都市だけが魅力的なのだろうか。スペックで魅力を測ろうとするとき、取りこぼされるものはないのだろうか。都市の魅力を五感で測った「官能都市ランキング」を発表した、HOME’S 総研の島原万丈氏と、都市と消費に詳しい三浦展氏に聞いた。
(後編はこちら)

 

島原:少し前に、「ムサコ問題」というものがありました。ネットの掲示板上で、“ムサコ”と呼ばれる街は、武蔵小山のことなのか、武蔵小杉のことなのか、という議論がされていたんです。

ムサコ=武蔵小山派の人は、「こっちは歴史が古くて、非常に楽しくて元気な商店街もある。最近できたタワーマンション街と一緒にしてくれるな」というプライドを持っています。一方で、武蔵小杉派の人は、あんなゴチャゴチャした街よりも、こっちのほうがずっとハイカラモダンな街だ」と主張する(笑)。

2つの「ムサコ」は、再開発で同じような街に

でも、この「ムサコ問題」は実質的に解決してしまうのではないでしょうか。というのも、武蔵小山の駅前にあった「暗黒街」の愛称を持つ飲食店街が、2015年あたりから始まった再開発で消えてしまった。跡地には、すでに140メートル級のタワーマンションが建つことが決まっている。隣接して、さらに2、3本建つらしい。

島原万丈(しまばら まんじょう)/HOME'S総研所長
1989年リクルート入社、リクルートリサーチ出向配属。以降、クライアント企業のマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略のプランニングに携わる。2004年に結婚情報誌『ゼクシィ』シリーズのマーケティング担当を経て、2005年よりリクルート住宅総研。2013年より現職。著書に『本当に住んで幸せな街―全国「官能都市」ランキング―』(光文社新書)(撮影:今井康一)

その結果、ぱっと見たときの武蔵小山駅前の風景が、ほとんど武蔵小杉と同じようになってしまう。ただ、これが街としての武蔵小山にとってよかったのかは、大いに議論をされるべきだろうなと思います。

三浦:実際、武蔵小杉は今非常に人気があるよね。もともとは工場の跡地だけれど、本当に一気に、一種の山の手的な街になっちゃったね。南武線沿いの街が、東横線沿いの街へと見事に変わってしまった。

僕が書いた『あなたにいちばん似合う街』(カルチャースタディーズ研究所+三菱総合研究所「住みたい街調査」をまとめたもの。対象は、東京、千葉、埼玉、神奈川に住む20代から40代の男女1500人に基づく)でも、1人暮らしの20代は男女ともに16%が武蔵小杉に住みたいと回答していた。

特に年収300万~400万円台の女性とか、600万円台の男性とか、ちょっと上の階層の人から支持されている。今の若い人たちは武蔵小杉がかつて工場跡だったなんて知らないから、先入観なく「おしゃれな街」として住みたいと思うんだね。

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