メーカーと著作権団体にミゾ ダビング10決着 残る対立の“火種”

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権利者vs.メーカー なお残る紛争の火種

迷走の末、ダビング10問題は決着を見たが、“紛争の火種”は依然として三つある。まず、BDにかけられる補償金の料率だ。これまでDVDなど録再機器は売価の1%が補償金額だった。BDの料率に関しては「1%を超えることはない」(メーカー関係者)とするが、「1%以下は受け入れがたい」(権利団体関係者)と、思惑がかみ合わない。

二つ目は、HDD内蔵型を補償金制度の対象機器に含めるかどうか。HDD内蔵型には爆発的普及が進む携帯音楽プレーヤーiPodも含まれるため、米アップルが文化庁に対し抗議文を送る事態も起きている。この問題は、7月上旬にも開催される文化審議会でBDの料率とともに議論される見通しで、対立があらためて浮き彫りになるのは必至。

そして最大の火種は「補償金以外の著作権者への還元策」だ。ダビング10導入を決めた昨夏の情通審議会答申では、補償金について「コンテンツのクリエーター(著作権者)が適正な対価を還元する制度を検討すべき」としか言及されなかった。著作権団体は、対価=補償金との主張だったが、メーカー側は「著作権者が対価を得る方法はほかにある」(電子情報技術産業協会の長谷川英一常務理事)と、補償金対象の拡大に反対してきた。6月下旬の情通審議会では、ダビング10開始とともに、著作権者からの新たな提案を受け、補償金以外の対価について今後議論することも決めた。だが、これが進むと「コンテンツを買う放送事業者が、直接著作権団体に対価を払えという流れになりうる」(経産省関係者)。対立がテレビ局などを交えた三角構図になる可能性もある。

そもそも補償金制度は、海外でもこれという趨勢がない。たとえば欧州では多くの国が採用し、課金率も高い。メーカーが支払った補償金の年額はフランスで244億円(2005年)、ドイツで231億円(04年)と、日本の36億円(06年度)を大きく上回る。一方、同じ欧州でも英国には録音・録画とも補償金制度がない。米国では補償金の対象が録音の一部に限られ、年額もわずか3億円弱(05年)。日本の議論がどこに範を求めるかは定かでない。

また、家電メーカーの姿勢も一枚岩ではない。機器と音楽・映像コンテンツの双方を手掛け、補償金の支払者でも受取者でもあるメーカーがあれば、機器の補償金だけを支払い続ける企業もある。情通審議会の議論でも、メーカー代表者は母体企業によって意見が大きく違う。あるメーカー関係者は「業界の総意として補償金に反対でも、企業として反対だとは言えない」と打ち明ける。音楽・映像のコピーが格段に容易になったデジタル化時代、“コピーの代償”を誰が担うべきか。議論はこれからが本番だ。


(杉本りうこ 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)

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